BeAST
もう、拒める理由が見当たらない。
何か、何かないだろうか。
この人を切り捨てられる理由が。
じゃなきゃ、このままじゃ、俺は。
「怖がらなくていい。まだ君が知らない未来がある。」
……人を好きになること、それを知らなかった俺に、教えてくれた人だから。
「…ホント、か」
「ホント。」
俺から体を離して、俺の目を見つめる丞さん。
その目は、柔らかくて優しくて。
「本当だよ、灯織。」
俺が瞬きをするたび、ポロポロとこぼれ落ちる涙が次第に止まり、丞さんが俺の額にキスをする。
「好きです。付き合ってください」
俺の濡れた頬を指で優しく拭いながら、微笑む丞さん。
誰にも見せないように、ずっと隠していた。
弱さを見せたら、つけ込まれるんだ。
俺はずっと、1人だったから。
そんな、そんな奴らばっかりだったんだ。
なんで俺は最初から、ここに居なかったんだろう。
でも俺は……
母親を責められない。
「俺…お母さんが、好きだった……
大好きだったんだ…」
頭がクリアになる。
泣きすぎて痛いけど。
「それなのに、真っ先にお母さんのこと、記憶から消したんだ」