BeAST
あれが、統帥とかいう鳳財閥のボスか。
確か、鳳一京。
一京とか、俺数字しか聞いたことねえわ。
名前にもあんだな。
その隣は、多分、
こちらに歩みを進め、2人とも俺に目を止め、そして足も止めた。
そんなに似ているのか。
真剣な顔で、俺は頭を下げる。
「灯織、だな」
じいちゃんが俺の名前を呼ぶ。
「はい」
「記憶は戻ったのか」
「いいえ、幼い頃の記憶はなく、ここにいる方全員、覚えておりません。申し訳ありません」
「そうか。……頭を上げなさい」
渋い声。
俺は頭を上げて、じいちゃんの目を真っ直ぐ見る。
「記憶が戻らないにも関わらず、この場に出向いてくれたこと、感謝する」
その言葉に、ドッと心臓がデカい音をたてた。
きっと、この人のこの言葉は、とても重く、俺を守る言葉だ。
ゴクッ、と喉がなる。
「辛い思いをさせて、申し訳ない」
頭を下げようとしたその人に、思わず
「辛くなかった、とは言いません」
声を発した。そんな俺を見上げるじいちゃん。
周りも息を飲む。
こんな風にこの人に言葉を発するのさえ、失礼なことなんだろう。
「けど、誰かを責めるつもりもなければ、今おふたりの目を見て安心さえしています。」
けれど、今、本当の言葉をしっかり発さなければ、それこそ失礼なんじゃないかと俺は思う。