BeAST

「母親に家から連れ出されたのに、結局施設に預けられて、それから何年も放置していた父親。そんな2人を普通なら好きになれないだろ」


普通。

久々に聞いたな。


「憎んだら、時間が戻るんです？」


目の笑っていない笑顔を返す。


「普通の幸せとやらが手に入るんです？」


千隼さんが俺をじっと見つめる。


「過去に起こったことを憎んだり、悔やんだり、恨んだり。それで何か生まれるんです？」


まあ、偉そうなこと言えた立場じゃないけど。


「私は母が好きです。父にも今日会えて本当に良かったと思っています。千隼さんがどういうお考えでそういった事を問うのか、未熟な私には分かりませんが、確実に言えるのは、私、普通って言葉嫌いなんですよね。何を基準にして普通なんです？」


もう笑わない。

千隼さんが私に悪意があって言った言葉じゃないけど、話を聞いている周りにも知ってもらって悪い話じゃない。


「すみません、生意気言って。」


眉を八の字にして、首を傾げれば、


「いいね」


片目を細めて口角を上げる千隼さん。


「俺、" いい子 " って嫌いでさ。ちょっと意地悪したくなったんだけど、期待をいい意味で裏切ってくれて嬉しいよ」


その目は、他の人間にとっては酷く落ち着かない目だとして、俺にとっては最高に落ち着く目だった。