BeAST
「灯織、そうじゃなくても身長高いから心配だなぁ」
脚の見えている範囲が普通より長いからな。
「でも可愛いのは、短めの方のソックスかなぁ」
そこはちゃんと、仕事の方選んでくれんのね。
「はい、これは公私混同」
と言いながら、丞さんに貰った香水を俺に軽く吹きかける丞さん。
「ははは」
俺の周りの大人は、滑稽な人が多いな。
鏡に映る俺は、胸が隠れるくらいの黒髪ロング。毛先が少し内巻きにされていて、片方を耳にかけている。
ナチュラルメイクは、本当にすっぴんかのように見えて良さを引き立たせる足し引きの上手すぎる、もはや芸術。
改めて
「プロだな」
「プロだよ?」
ちょっと?と少しツッコんでくる丞さん。
ああ、少し気だるげな感情が吹き飛んだ。
これも、天馬の作戦なのだろうと思うと、本当にアイツはやり手だ。
「あともう1つ公私混同していい?」
仕事にプライドがあるからこそ、自分の感情を前に出すか否かを冷静に見極めようとしている大人。
けど、俺に聞いている時点で、感情に負けてるだろ。
「いいよ」
それがどうしようもなく愛おしくて笑ってしまう。
「ありがとう」
そう言って俺の左腕を掴んで、手際よく何かをつけて俺の腕を捲らせる。