BeAST




「うお、人いた……て、え?」



その声に涙が出た。


少し緩まった力。


ドンッと全力で胸を押して、その声の方に走る。


ギュムッとそいつを抱きしめる。


「え、えっ?何事?は?待って、頭追いつかな」


「……ぅ」


こわ、あいつ、こわ……


「ゆみ、き」


勝手に涙が出る。

俺の背中をさすり始めるのは、


「七種」


「……皇、お前何してんの」


皇が今、どんな顔してんのか分かんねえ。


少し経って、足音が近付き、



「灯織、次あいつに何かされたら、俺こんなんじゃ済まねえから」



そう呟いて、階段をおりていく足音。


ぎゅう、と七種を抱きしめる。


いやいや、七種を抱きしめる、じゃねえんだわ。

ハッとして七種から離れる。


「わり、思わず」


七種は、ムッとした顔をしている。


……そんな顔されても。


「男に迫られてるって、皇のことだったのか」


ごもっともで。


「こういうの、これが初めてか」


「……」


七種の眉間のシワが濃くなる。


「俺が来なかったら、それこそレイプまがいなことされてたってことだろ」


ごもっともで。


「……流石七種。」


「こんな時に褒められても少しも嬉しくない。」


そうですよね。



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