BeAST
胸ぐらを掴む腕に、ふぅっと息をかける。
ビクッと体を振るわせて手を離す。
すげえ鳥肌立ってんな。
「俺喧嘩も強くないし、非力なんだよ。だから、お前ら二人は流石にキツい。サンドバッグも辛いんだよ」
ワイシャツを直しながらそう呟き、
「あ」
ひとつ思い出して、柿谷の胸ぐらを掴んで耳元で囁く。
「ハルのこと知りたいなら、俺と仲良くなろうぜ」
体を離せば、どす黒いオーラを纏う柿谷が俺を殺したいと目で訴えていて。
「次会ったらそれを伝えようと思ってたんだ」
そろそろ時間だ、戻れば?と伝え、俺は席に着く。
「お前と、仲良くだ……?」
やっと絞り出したような声で呟く柿谷。
ガンッと俺の机を蹴って、胸ぐらを掴み俺を立たせ、壁にドンッと押し付ける。
「気安くその名前を呼ぶな」
背中の痛みで、顔が歪む。
「本当、お前は皇より分かりやすくてありがてえよ」
ググッと胸ぐらを掴む拳が、喉を圧迫する。
「ケホッ……ゴホッ」
「お前に何が分かるっていうんだ?あ?お前は誰なんだよ」
力の限り俺の胸ぐらを掴む柿谷は、俺を軽く持ち上げている状態。
つまり、足がついてない。
苦しくて、涙が自然と出る。
あー、俺最近こんなばっか。
でも、抵抗はしない。
こういう時は、笑うんだ。
環はそうしてた。
「……ってめ、何笑って」
手を伸ばして、柿谷の頭に手を置く。