恋の絆は虹の色 【妹でも恋していい?】

エピローグ これからも一緒に歩こうね




「どうした桜、元気ないな?」

 夏休み前半のピークを過ぎて、8月に入ると私たちのお店もお盆までは一段落。

 この時期は食事よりもスイーツやかき氷などのメニューが多く出るから、両親のお店の頃から私の方が忙しい。

「最近、ちょっと疲れやすくて」

「夏バテか? 今年も暑いしなぁ」

 どちらかと言えば暑さが苦手な私。

 夏バテ防止のためにはエアコンも控えめがいいのだけれど、さすがにフロアが暑いということにも出来ず、どうしても冷やしぎみになってしまう。

「夏風邪かなと思って薬も飲んでみたんですけどね……」

 なんとなくぼんやりと、疲れが抜けきらないような、少し微熱があるような私の顔を覗き込んでいた秀一さんがふと気が付いた。

「なぁ、桜。先月の()()あったか?」

「えっ?」

 そう言えば、あの挙式をした6月には間違いなくあった。

 生理痛がきつい私だから秀一さんでも気づく。

 痛み止めを飲んでいる時は、それが正常な生理現象なのだけど、申し訳なかった。

 それが、先月はすっぽり抜けている。今月だってもうそんな時期に入ってもいい。

「無いです……。えっ……? もしかして……?」

 お腹に両手を当てる。まさか……、本当に?

「よし桜、今日は午後から休みだ。病院行くぞ」

 お店を臨時休業にして数時間後、私たちは産婦人科の診察室にいた。

「岩雄桜さんのご主人でよろしいですね? どうぞこちらへ」

 待合室から看護師さんが秀一さんを連れてくる。

「はい」

「ご主人もお子さんの誕生希望でよろしかったですか?」

「はい。えっ? 本当に?」

「うん」

 さっき、ちゃんとエコーの画像をこの目で見たもん。

「おめでとうございます。心臓も動いていますから、妊娠ですね。少し初診が遅かったくらいですから、次の診察には母子手帳を持ってきてくださいね」

 私たちらしく、そのまま市役所で手帳を受け取っての帰り道、自然に手を繋ぐ。結婚指輪をつけている私の手はお腹の上。

「まさかの連続だな」

「はい。週数を逆算すると、あの日です」

「本当にハネムーンベビーが出来ちまったのか」

「いいんです。新婚旅行と結婚式をいただいて、次は赤ちゃんです。女の子の幸せがいっぺんに来ちゃいました」

「一緒に頑張ろうな」

「はい。元気な赤ちゃん産みます」

 その夜、両家がみんな集まって大宴会になった。

「男の子、女の子どっちでもいいんです。間違いなく秀一さんとの赤ちゃんです」

「大事にするのよ。辛いときは休みなさい?」

「はい」

 お母さんが一番嬉しそうだったのは、私を宿した経験があるからだよね……。



 翌年の春、私は母親の仲間入りをした。

「頑張ったな。本当にどっちも無事でよかった」

 朝、産気づいた私を車に乗せて病院に。そのまま出産まで立ち会ってくれた秀一さん。

 「男は本当に何も出来ない。申し訳ない」と私の手をぎゅっと握ってくれた。お願いしたとおりに体をさすってくれたり、陣痛の時は顔の汗をぬぐってくれて、助産師さんからも褒められていたっけ。

 その小さな女の子を抱いたのは夕暮れになってから。

「よく頑張ったぞ桜……」

「疲れました……。その分、本当に可愛いです……」

 最後の方は正直よく覚えていない。でも、産声を聞いた瞬間に意識がハッキリ戻った。

 本当は面会時間は過ぎていたけれど、個室ということもあり、お店を閉めてから毎日顔を見せてくれた。

 二人で考えた名前は芽春(ちはる)

 この年は冬が長くて、春が遅く待ちわびたこと。そして、私たち家族の新しいスタートがこの春から始まることから名付けた。

「これからは三人です。しばらくお仕事は休み休みですけど、早く戻れるように頑張りますね」

 私のブランクはお母さんが代理で入ってくれた。

 芽春を抱いて帰ってきた日、これまで二人だった家の中に、家族が増えたことを実感した。

「芽春ちゃん寝ちゃいました」

 翌日の仕込みをしている秀一さんの隣で囁く。

「秀一さんにも迷惑かけちゃってますね」

「いいんだ、桜はママになったんだから、それが一番だ」

 秀一さんの手を私の胸元にもっていく。

「芽春ちゃんのために大きくなってくれたみたいですね」

 あんなに小さかったのに、いざ出番が来るとちゃんと母乳が出るなんて自分でも驚いたよ。

「桜、先にシャワー浴びちゃえ。泣いたらあやしとくから」

 まだ産後すぐだから、バスタブに入れずシャワーだけ。

「じゃあ、その時にお湯を張っておきます。早く休んでくださいね」

「あぁ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 特別なことはない毎日だけど、それは私が無事にその日を過ごせたという証拠。

 最後まで灯していた外のディスプレイ照明を消して、私の後に続く気配を背中で感じた。


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