私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
その時、スマートフォンに次のミーティングがキャンセルになったと通知が来た。

何これ、偶然て重なるの?
神様のイタズラ?


「あの・・坂本さん!」

遠ざかって行く彼に向って、私は呼び掛けた。
その声で振り返った彼に、私は自分でも驚くようなことを口にした。

「お昼・・ランチ一緒に食べませんか?」

「・・あー、ごめん・・」

腕時計に視線を落とした彼から、『ごめん』のひと言。
それを聞いて、ハッとした。

嫌だ・・私ったら。きっと疲れてるんだ。
だから、こんな訳の分からないことを口にして。

「あ、あの、すみません。忘れてください。ほんとにごめんなさい!」

「あ、いや、そうじゃなくて」

「・・え?」

「そうじゃなくて、もうすぐ休憩時間が終わりなんだ。だから、一緒に食べる時間がなくて」

あ・・。
すまなさそうな彼に、私の方が申し訳ない気持ちになる。

「僕の方こそ、ごめん。せっかく誘ってくれたのに。また今度でもいいかな?」

また、今度?
私は、断られたんだろうか。それとも・・誘われたんだろうか。

「あー、休憩終わっちゃうな。行かないと・・。中村さん、暗記して。いい?」

「えっ」

「090・・・・・・・・、覚えた?」

いま何か別のことを口にすると、覚えたばかりの番号がこぼれ落ちそうな気がして、私はただコクコクとうなずいた。

「じゃ、また! 連絡して」

去っていく彼を見送りつつ、私は急いで手元のスマートフォンに番号を登録し、ふぅと息を吐く。
『連絡して』は、いったいいつ連絡すればいいんだろう・・。

そんなことを考えながら、私はオフィスに戻った。
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