私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
コトン。
誰かの肩にぶつかった気がして、目を開けた。

「中村さん、どこか悪いの?」

え、この声・・。
嘘、どうしてここに?

「こんなところで寝てたら、風邪ひくよ」

さっきは、いなかった。
いつの間にか、私が座っていたベンチシートの横に、彼がいた。

「中村さん、会計呼ばれてるよ」

「あ・・うん」


会計を済ませ、彼のいる場所に戻った。
すかさず、私の手から処方箋を奪う。

「貧血? この薬、大丈夫?」

「えっ?」

「もう少し、胃に優しいのがあるんだ。これ飲んで、胃が痛くなったりしない?」

「痛い・・けど、ガマンしてた」

「薬剤師さんに相談してみたら? 先生に話してくれるかもしれない」

「・・そうなんだ・・ありがとう」

「うん」

「それより、坂本さんどうしてここにいるの?」

「ああ、今日ここの勤務の日だったんだ。帰ろうと思ってロビーを横切ったら、見覚えのある人がいるなと思って」

「・・偶然て、こんなにあるものなのかな・・」

思わず口にしていた。
他意は、無かったのだけれど。

「あのさ。俺、別にストーカーじゃないんで」

怒らせただろうか。彼の口調が変わる。
ガタン、と音を立てて椅子から立ち上がり、エントランスの方へ歩いて行ってしまった。

私はただ、その後ろ姿を見つめていた。

後を追って、嫌な気持ちにさせたと謝れば良かったのだろうけど。
でも・・もう気持ちのやりとりをする心のエネルギーさえも、残っていなかったのだ。
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