私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
「ごめんなさい・・」

謝罪のフレーズが口からこぼれたものの、誰もいないところで、いったい何に謝っているのか、自分でもよく分からなくなっていた。

もう、帰ろう・・。
なんとか立ち上がって病院の建物を出る。

「え・・どうして・・? もう帰ったのかと・・」

出てすぐ横のベンチに、坂本さんが座っていた。
怒らせてしまったし、とっくに帰ったものだと・・。


「帰ろう・・と思ったんだけどね」

一度言葉を切って、彼が続ける。

「俺も、いつも考えてたんだ。こんな偶然、本当にあるのかな・・って。だけど答えなんて出なくて、目の前にある現実の中に、いつも中村さんが現れるんだよ」

「坂本さん・・も?」

「だってさ、結婚してるのか、彼氏いるのか、そういうことを確かめなきゃと思うのに。いつも心の準備ができる前に現れちゃうんだから・・驚くよね」

そういえば、そうだ。
絶妙なタイミングで現れて、いつも声を掛けてくれる。
そう感じていたのは、私だけじゃなかったんだ。

「こないだご飯食べようって言われた時も、なんでこのタイミングで?って。それだっていま思えば、連絡先を交換するための偶然だった?なんて考えたりね。

さっきだって少しイラッとして、このまま帰ったって良かったのにさ・・。ひとりで帰すの心配だなとか、ちゃんとご飯食べさせたいとか、そういう思いが勝っちゃったよ」

そう言って、彼は目を伏せた。
あぁ・・。

「ごめんなさい・・。私、嫌な思いをさせてしまって」

思わず、彼の腕に手を掛ける。

じゃあさ、と彼は顔を上げ、彼の腕をつかんでいる私の手を取った。

「ちゃんとご飯食べさせたいっていうのと、ひとりで帰すの心配っていうの、受け入れてくれる?」

「・・・・はい」

私の返事を聞いた彼は、私の手をぎゅっと握って歩き始めた。
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