私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
来たか・・。
とっさにアタマが切り替わる。

私が抱きついたままだったから、彼も同時に気付いたらしい。

「紗絵、電話じゃない?」

「・・うん、分かってる」

「出なくて・・いいの?」

「うん・・・・出なきゃダメかな」

「ほら、ひとまず出なよ」

彼は私の手を、ゆっくり自分の首から離した。

震え続けるスマートフォンをポケットから出すと、やはり見慣れた、そして掛かってきてほしくない番号からだった。

「はい、中村です・・。そうですか・・もう客先には連絡済みですか? 分かりました。30分ほどで行けると思います」

電話の内容は、上島チームが担当するシステムトラブルを知らせるものだった。
この時間の連絡となると、朝までを覚悟するしかない。

「紗絵、仕事?」

「うん・・会社に戻らないと」

「近くまで、一緒に行くよ」

「えっ」

「正直に言うと、このまま朝まで一緒にいたかったけど、もう少し待てってことだろうね」

「蓮斗・・」

「続きはまた今度。もう遅い時間だから、会社の近くまで送っていくよ。行こう」

彼は私の手を握って歩き出す。

私も・・。
もっと長い時間、蓮斗と一緒にいたかった。


「紗絵、仕事終わったら連絡して」

「うん」

「これ着ていきなよ。帰り、もっと寒いから」

彼は上着を脱いで、私の両肩に掛けた。
でも、彼が風邪でも引いたら・・。

「蓮斗が寒いよ。もう、すぐそこオフィスだし」

「いいんだ。戻りはほとんどバスだから、俺は大丈夫」

「ありがとう・・。なんだかごめん」

「じゃあ・・行くよ。ほら、紗絵も行かないと」

「うん、じゃあ」


ビルに入り、エレベーターでオフィス階に向かう。
ひとりになると、途端に寂しい気持ちになった。

さっきのはやっぱり夢・・?
そう思うほど、なんだか儚い時間だった。

夢ではありませんように・・。
そう願って、私はオフィスのドアを開けた。
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