私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
ビルの前に着いたと連絡があり、彼の上着を羽織った。
オフィスを閉めて外に出る。

「紗絵、こっちこっち!」

「蓮斗って、クルマ持ってたの?」

取り回しがしやすそうな、ハイブリッドのコンパクトカーだ。
興味本位で、窓から中をのぞく。

「いいから、早く乗って。風邪ひくぞ」

「はーーーい。あ・・」

メガネだ・・。
普段はきっと介助もあるし、コンタクトレンズなのだろう。

それにしても、メガネの横顔がちょっと素敵。
見惚れてしまった。

「紗絵、俺の顔はいいからさ。家どこか教えてくれる?」

「あ、えっと・・」

私の言った住所を、彼がカーナビに設定する。
表示されたルートを確認して、時間を確かめていた。

「いまの時間なら20分もあれば着くな」

「早いんだね」

「深夜で道が空いてるから・・。紗絵、寝てたら? 着いたら起こすよ」

「・・寝ない」

「ん?」

「寝たら、あっという間に一緒の時間が終わるから・・」

小さくつぶやくと、ふふ、と彼が笑う。
私の頭に手を伸ばして、ポンポンと撫でた。

「紗絵、必要なものを家に取りに行って・・。良かったら、そのままうちに来る?」

「え?」

「多分・・そうしたとしても、あっという間に時間は過ぎると思うけどね」

「行こう・・かな」

そう答えつつも、もちろん小さな葛藤はあった。

私は彼のことをよく知らない。
知っているのは、名前と職業と、どこに勤務しているかだけ。

それでも。
少しの時間でも一緒にいたい。
そういう存在であることに、間違いはなかった。


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