私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
私が出勤するギリギリの時間までベッドにいて、お互いがいくつだとか、どんな仕事をしてるかとか、今まで知らなかったことを少しずつ埋めていった。

彼はひとつ歳上の37歳だった。

「あー、そろそろ、準備しなきゃ・・」

時間を確かめ、ようやくベッドを出る。
服を着ようとして、ふと気づいた。

「そうだ・・。どうしよう」

「ん? 何が?」

「昨日帰ってないから服が無い・・。さすがに昨日と同じシャツは着ていけないし」

「紗絵、休日出勤も普段と同じような格好で会社行くの?」

「そんなことないよ。わりとみんなラフな感じで来る」

「だったら俺のシャツ着て行ったら? クローゼットに掛かってるから、好きなの選んで」

「え、いいの?」

「俺ので良ければ。少し大きいかもしれないけどね」

いくつかある中からピンクのシャツを選び、袖を通す。
何回か袖をまくると、いい感じの長さになった。

「これ借りるね。言わなければ誰にも気付かれないだろうけど、蓮斗の服・・なんだかちょっと恥ずかしい」

「可愛いな、紗絵」

ストレートに言われて、思わず俯く。
返す言葉が、見つからなくて。

「明日も、明後日も、紗絵と一緒にいられたらいいのに・・」

彼もシャツに着替えながら、そうつぶやいたのが聞こえた。
そんなふうに思ってくれたのが嬉しくて、私は思い付きを口にしてみた。

「蓮斗・・。私・・今日仕事が終わったら、またここに来てもいい?」

「え?」

「でも、蓮斗がゆっくり休めないか・・」

「紗絵、手だして」

クローゼットの引き出しをゴソゴソと探った後、あげる、と何かを乗せてくれた。
これ・・。

「え? 鍵・・だよね?」

「ここのね。無くさないでよ」

「こんな・・いいの?」

「うん。いつでも来て」

手のひらの鍵をぼんやり眺めていると、時間大丈夫?と彼が促すように言う。
時計を見ると、出社時刻まで1時間を切っていた。

「あ、もう行かなきゃ!」

「送っていこうか?」

「ううん、大丈夫」

「そっか、じゃ、また明日だね。俺、仕事中はほとんどスマホ見れないけど、メッセージ送って」

「うん。じゃあ、行ってきます」

「気を付けてね、紗絵」

『行ってらっしゃい』のキスをもらって、私は彼の家を後にした。
< 26 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop