私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
素直に頷けなかった。

だって私、これからマネージャーになるのに、やっと評価されたのに、病気だから軽くしてなんて言いたくないよ・・。


私はこの時から。
彼にいくつも嘘をつくようになった。

長時間の残業は、彼が夜勤の日に入れた。
そして休日出勤は、彼が土日に勤務がある日に調整する。

お互いの勤務中はほとんど連絡を取らないから、たとえ家にいなくても、彼にバレることはなかった。

時々、どうしても避けられないことがあって、彼が家にいる時に残業したり出勤することもあったけれど、たまには仕方ないよね・・と言ってくれた。

私は彼に黙ったまま、マネージャーに昇進した。

ふたつのチームを見ていた時期より、精神的な負担が大きくなった。
上手くいって当たり前、上手くいかない時が腕の見せどころ。

客先とはギリギリの交渉をして、メンバーをできる限りフォロー、成果物はきっちり確認をして、成果を積み重ねる。

そんな毎日が、私を徐々に追い込んだ。


「紗絵、もう7時だけど・・時間平気?」

「ん・・平気じゃない・・けど」

朝、起きられなくなった。
身体を引きずるようにベッドから出て、急いで支度した。

「紗絵、パン食べる? スープは?」

「んー・・もう時間ないから・・野菜ジュースだけ飲もうかな」

「お昼、ちゃんと食べないとダメだよ」

「うん・・分かってる・・行ってきます」

私を大事にすると言った彼は、お互いが通勤しやすい場所を探して、一緒に住む家を見つけてくれた。

ただ、私は通勤が楽になった分を、そのまま勤務時間に費やした。

彼と一緒にいない時間は、全て仕事で埋めた。
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