私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
ガチャ、カチャン。

ドアの鍵が開く音がする。
彼が、帰ってきた。

「紗絵? もう帰ってるんだ、今日は早い・・」

リビングではなく、寝室のベッドで寝ている私に気付いて、彼の言葉が途切れた。

「こんな早い時間からどうした? 具合悪い?」

答えもせず、ぼんやりと見つめる私に何かを察したのだろうか。
彼は、ハッとして私の身体に掛かっている布団をめくった。

「なんだよこれ!」

赤く染まったシーツを見て、彼は言葉を荒げた。

正確にはシーツではなく、漏れるのを予想して私が何枚か引いたバスタオルが、赤くなっていたのだ。

「紗絵、どうして・・」

言葉を失っている。

『どうして』の後に、彼はどんな言葉を続けようとしたんだろうか。

怒ってる・・よね。

それでも。
仕事柄理解しているのか、その気持ちを口に出すのは今じゃないと思ったのだろう。

一瞬だけ私から視線をそらし、小さく息を吐いてから言った。

「紗絵、立てる? 汚れたパジャマとか、着替えてきな。ベッドのタオルは、俺が片付けるから」

「え・・でも私が汚したから、自分で・・」

「俺に任せて。大丈夫だから、ね?」

「蓮斗・・」


ごめん。
ずっと、嘘ついてて・・ごめん。

心の中で彼に謝った瞬間、一気に涙があふれた。

「紗絵どうした? どこか苦しい? 病院連れて行こうか?」

「・・・・」

「ほら、とにかく着替えよう。辛いなら、着替え手伝おうか?」

私は首を横に振った。
辛いわけでも、手伝ってほしいわけでもなかった。

「じゃあ、着替えたらソファで待ってて」

そう言って、彼は微笑んだ。

私は、こんなに優しい笑顔を向けてくれる人に、いくつも嘘を重ねてしまったんだ・・。
< 34 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop