私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
「いろいろな理由があって、妊娠を望んでいないという人には、最初から全摘出を勧めることもあるけれど、中村さんはまだ若いからね」

「・・・・」

「いいのよ。すぐ答えは出ないだろうから、よく考えてみて。
いろいろ疑問も不安もあると思うし、今日採血した血液検査の結果もお伝えしたいから、また2週間後に話しましょう」

「・・はい。ありがとうございます」

ヨロヨロと診察室を後にする。
さすがに、冷静ではいられなかった。

「紗絵どうだった? 顔、青いけど・・・・」

「蓮斗どうしよう・・私・・」

「紗絵?」

「中村さん、処置室にお入りください。あ、付き添いの方も一緒にいいですよ」

「え、僕も入っていいんですか?」

「普段はダメなんだけど、診察の話でショックを受けてるだろうし、ひとりにしておくのも心配だから・・」

「ありがとうございます」

処置室のベッドに横たわると、点滴の処置がされた。
ゆっくり落ちてくる薬液のしずくを眺めながら、先生から聞いた話を彼にする。

「そうか・・。決めなきゃいけないことが、いくつかあるんだね・・」

「蓮斗、どう思う?」

「どうって、そう・・だね・・」

ベッドのそばにあったイスから立ち上がり、窓の外を見ながら彼が言った。

「俺は、紗絵と俺の子供に会いたいよ。
だけど、俺がそう望んだら、紗絵は少なくとも2回手術を受けなきゃいけなくなる。手術後の出産は、帝王切開になるからね」

一度メスを入れた子宮は、自然分娩ではリスクが高く、帝王切開になるのが一般的らしい。
だから、2回になるのだと。

「それに・・」

「それに・・?」

「俺、紗絵とは付き合ってるけど、子供が欲しいから全摘出はやめてほしい・・とか、そういうこと言える立場じゃないよ」

「・・え?」

蓮斗・・?

初めて見る、彼の不機嫌そうな顔。

不機嫌・・じゃないのかもしれないけれど、いつもの穏やかさが、そこには無かった。
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