私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
彼は電話を切り、私に、さつきに連絡して来てもらうように言った。

「婚姻届には保証人がふたり必要だからさ。ひとりは、俺の職場の先輩に・・師長に書いてもらおうかと。もうひとりはさつきちゃんに書いてもらおうか」

「うん。連絡してみる」

私たちは彼が勤務する病院に戻り、併設されているカフェに入った。

彼は、自分がサインする欄を丁寧に書いて最後に印鑑を押し、『ちょっと上に行ってくるね』と婚姻届を持って職場に戻った。

その背中を見送りながら、そういえば恋が始まった時も、急展開だったな・・と思い出す。
この結婚も、なんだか私たちらしくていいかなと考えていた。


「紗絵ちゃん、お待たせ!」

さつきに声を掛けられる。
会社帰りだろうか、通勤の時に使っているバッグを持っていた。

「さつき、ごめんね。夜に呼び出して」

「全然だよー。ちょうど残業終わって、帰ろうかと思ってたところに連絡が来たから。帰る前で助かった」

「そうだよね。家からだと逆方向だもんね」


婚姻届を持って戻ってきた彼が、さつきに気づいて声をかけた。

「さつきちゃん来てくれたんだ。ごめんね、仕事終わりに呼び出して」

「いえいえ、おめでとうございます!」

「じゃ、これ。さつきちゃん、よろしくお願いします」

3人のサインが入った婚姻届が、テーブルに広げられる。
バッグからペンを出しながら、さつきが苦笑いしていた。

「保証人とはいえ、緊張する〜。私が間違えたら全員書き直しでしょ? 手が震えちゃうな〜」

そんなことを言いつつ、さらさらと書き終えた。
これで全ての欄が埋まった。

「は〜、間違えなくて良かった。紗絵ちゃん、蓮斗くん、改めておめでとう! お幸せにね」

「ありがとうね、さつきちゃん」

さつきは彼に聞こえないように、『今度晩ご飯ごちそうしてよ。私のおかげでしょ?』と耳打ちして帰って行った。

本当に、さつきが背中を押してくれたおかげだ。


「紗絵」

「は、はい」

「心の準備はできた?」

「え、心の準備?」

「俺と、家族になれそう?」

「・・うん」

「俺、紗絵と家族になること、ずっと考えてたよ。多分、紗絵を初めて家に連れてきた日から」

「そんなに・・早く?」

「俺、言わなかったっけ? 紗絵に運命感じてるって」

「・・言ってた」

「じゃあ、紗絵が大丈夫なら出しに行こうか」
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