私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
「坂本さん。坂本さん、分かりますか?」

呼びかける声に、ゆっくりと瞼を開く。
ぼんやりと、明るい景色が見えた。
天井には、手術室のライトも見える。

私、生きてるんだ・・。

「坂本さん、手術終わりましたよ」

麻酔から覚醒したらしい。
少しボーッとするものの、看護師さんの声や、機材の音が聞こえる。


ICU(集中治療室)に移って少し経つと、彼が来てくれた。

「紗絵・・。無事に終わって良かった・・」

「・・ん」

彼がそっと、私の手を握った。

「具合・・どう?」

「・・うん・・」

「麻酔が切れてくると手術した部分が痛むと思いますが、我慢しなくていいんですよ。
痛み止めを上手に使った方が、後々、早く動けるようになりますから」

「・・はい」

「今日は一晩ここで動けないけど、明日になればベッドから起き上がって、少しずつ歩けるようになるから」

「そう・・なんだ・・」

「だから、今夜はゆっくり寝て。痛かったら、痛み止めもらうんだよ」

「・・うん」

「じゃ、明日また来る」

手を軽く握って、彼は微笑んだ。
でもほんの少しだけ、涙が浮かんでいるように見えたのは、気のせいだろうか。

私は力なく彼の顔に手を伸ばす。

それに気付いてかがんでくれた彼の頬に触れると、ホッとして涙がこぼれた。

「・・また、一緒に・・いられるね」

「そうだな・・。さ、少し寝ないと」

「うん・・」

少し我慢していたものの、深夜に差し掛かる頃に痛みが強くなってきて、痛み止めを入れてもらった。

おかげでまた眠ることができ、次に目が覚めた頃には、外が明るくなろうとしていた。

これからは、回復していくだけ。
10日間の入院の間に、退院した後のことをゆっくり考えればいい。

起床時間まで、まだ少しある。
私はもう一度目を閉じた。
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