私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
彼の言っていた通り、手術翌日のお昼前にはベッドから降りて、看護師さんに支えられながら少し歩いた。

そのまま、最初に入った一般の病室に移る。
私は個室を選んだから、周りの目を気にせずに寝たり起きたりトイレに立ったり、自分のペースで過ごすことができた。

食事が出たのは、その夜から。
といっても、最初は、重湯と具の無いみそ汁とジュースだった。

彼も患者さんで見慣れてはいるものの、まさか紗絵が食べるとはね、と笑った。

「食べる・・って、これ全部飲み物でしょ〜」

「まぁ、何日かしたら普通のご飯になるからさ」

彼は仕事の合間に、毎日来てくれた。
日勤の日は夜に、夜勤の日は仕事の前に。

「そろそろ・・行かなきゃな」

彼は腕時計を見て言った。
私がプロポーズの時に渡した、あの時計だ。

「ねぇ蓮斗、その時計どう?」

「ん?」

「あげたっきり、感想聞いてなかったと思って」

「これさ、仕事中は時間がすごく見やすいし、ふと目に入る時は、必ず紗絵のこと思い出すよ」

「またまた~」

「本当だって。あ、いまさらだけど、これ高かったろ?」

「あー、給料の3ヶ月分を実感した」

「だよな。自分じゃ絶対手が出ないって思ってたし。本当に嬉しいよ。一生使うから」

「あ・・」

「ん、どうした?」

「あれ・・もしかして・・」

私は、彼の背中の後ろにあるテレビの画面を指差した。
ニュースで、金融機関のシステムトラブルが取り上げられている。

「これ、どこだろう。もしかして、ウチが担当したシステムかな・・」

「どうだろうね、違うといいけど。・・じゃ、仕事行く。また明日来るから」

「あ、うん。毎日ありがとう」

彼が病室を出てから、すぐにインターネットで情報を探した。どうやら別の会社の担当らしい。

良かった・・。

休むと決めたところで、辞めたわけじゃないから、進行中のプロジェクトも含め状況はどうしても気になった。
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