私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
ふと、メンバーの誰かにメッセージでもしてみようかと思ったけれど、聞いたところで何もできなければ意味が無い。

不思議なもので、あんなに怖かった手術が無事に終わると、もう仕事のことを考えていた。
ぼやけていた理想像が、またクッキリとしてきて自分でも驚く。

せっかくの休暇、何か仕事に役立つことを勉強してみようか、とか、いっそステップアップで転職活動に充てようか、なんて次々と浮かんでくる。

困ったものだな・・と、自分に苦笑いした。


手術から1週間が過ぎ、経過も良く、退院の日が決まった。

「紗絵、ここから2週間の休暇で何かしたいことある?」

「ん、何かって?」

「例えばさ、最初の1週間は様子見だけど、後の1週間は俺と何日かのんびり旅行するとか」

「えー?」

「いや、なんかバタバタと結婚して、手術のことがあったとはいえ、何もイベントっぽいことしてないからさ」

「蓮斗・・結婚式したかったの?」

「アハハ、そうじゃないけど、休養兼ねて、新婚旅行くらいはあってもいいかなって」

「あー・・でも蓮斗、休み取れるの?」

「すぐに出せば何とかなるかも。3〜4日くらいなら」

「ほんと?」

「うん、師長に言えば分かってくれると思うし」

「いいね・・行こっか。これからのことも話したいし」

「日程もそうだし、体調に変化があった時のこと考えると、国内限定になっちゃうけどね。
紗絵、どこか行ってみたいところとかある?」

楽しそうに話す彼を見て、私はふふっと笑った。

「紗絵?」

「なんかこういう話って、してるだけで楽しくなるね」

「そうだな。紗絵の笑ってる顔見てるだけで、俺も幸せな気持ちになるよ」



だけど。
この旅行は、実現しなかった。


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