私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
師長さんに呼ばれて、私たちは談話室に向かった。
ふたりで待っていると、ガラガラっとドアが開き、師長さんと50歳ぐらいの男性が入ってくる。

「坂本さん、その後どう?」

「はい、だいぶ回復しました。もう頭痛も無いですし」

「そう、良かった。そろそろ大丈夫かなと思って、呼んだのよ」

「はい?」

「こちら、坂本さんが助けてくれた患者さんの息子さんよ」

「あの・・母を助けていただいて、本当にありがとうございました。
母をかばって階段から落ちて、頭を打ったと聞いて・・腕の骨折も、本当にすみません」

申し訳なさそうに、男性は何度も頭を下げていた。

「気になさらないでください・・。ほら、見ての通り、まぁ腕は折れてますけど、大丈夫ですから」

「もし坂本さんがいなかったら、母が落ちて、最悪の事態になっていたかもしれません・・」

それを聞いて、彼は何かを察したようだった。

「あの・・もしかして僕のことを聞いて、お母さまが気に病んでおられるのではないですか?」

「・・そんな、ことはないと思いますが・・」

「お母さまには、僕が感謝していたとお伝えください」

「え? 感謝ですか?」

「はい。今回のことで、僕たち夫婦はとても大切なことを思い出したんです。だから、感謝している・・と」

「分かりました。母も喜びます」


その翌日、彼に退院許可が出た。
しばらく腕のギプスは取れないけれど、日常生活を送るのに問題は無いそうだ。

「次の診察は1週間後だそうだから、その時に、その後のことについて話しましょう。
坂本さん、無理しちゃダメよ。いろいろ・・ね」

ふふふ、と師長さんが微笑む。

「分かってますよ。俺の復帰が遅くなりますからね」

「そうよ〜、待ってるからね」

「はーい。じゃ、帰ろうか、紗絵」

「うん。師長さん、本当にお世話になりました」

私たちはタクシーに乗り込み、病院を後にした。
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