私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
13時ちょっと前に出社すると、すぐにさつきが席にやって来た。

「紗絵ちゃん、おはよ。待ってたんだー」

「ん? どうしたの?」

「・・ひとり、頼める?」


彼と一緒に、傾聴やストレスのケア方法を学んだのだと、復帰後の手続きで人事総務部に行った時、何気なくさつきに話したのだ。

するとその場で、『手伝って欲しい』と両手を握られ、キラキラした目で言われた。
仕事で追い詰められる社員に対して、症状が軽いうちに対処する仕組みを作ろうとしている・・と。

「紗絵ちゃんは適任なの。本当にいろんな経験してるから。上層部からの信頼も厚いし、もう紗絵ちゃんしかいないから!!
私のために勉強してくれて、ありがとう!」

さつきには彼とのことでいろいろ借りもあるし・・。
なんだか後には引けない感じになっていた。


「ひとりなら、時間調整するよ。いつ?」

「できたら・・今日の15時とか、どうかな?」

「それは・・切羽詰まってる感じ?」

「うん、結構まいってる感じ」

「そっかOK。さつき、場所の手配お願い」


誰だって、話を聞いてもらいたがっている。
悩んでいても、悩んでいなくても。

私にできることなんて限界があるけれど、それでも頼ってもらえるなら、喜んで話し相手になろうと思う。

「えーと、お悩みは・・」

さつきからの情報に目を通す。
期待に応えたくて、でも思うようにいかなくて、疲れてしまったんだろう。

少しでも良い方向に向かえばと、私は指定された会議室に向かった。


「あぁ、中村さん」

ちょうど会議終わりだったのか、手前の会議室から出てきた部長に呼び止められた。

「部長、お疲れさまです」

「中村さん、プロジェクト以外でも活躍してるみたいじゃない。さっき人事総務部の部長に聞いたよ」

「いえいえ」

「でもなー、中村さんを人事総務部に貸すのは、開発部としては痛手だけれど、うちの部員たちも含めて、面倒見てもらってるようだからね」

「そうですね、何人か・・。少しでも現状が改善されると良いのですけど」

「そうだね。俺も、目をかけるようにするよ。あー、俺も中村さんに話を聞いてもらおうかな」

「部長も・・何かお悩みですか?」

「もうお悩みだらけだよ。炎上間近のプロジェクトもいくつかあってさ。中村さんには、そっちのフォローをしてもらいたいくらいだ」

今度相談の予約入れるよ、と笑いながら開発部のフロアに戻っていった。

その後ろ姿を見送りながら思い出す。
休暇前に心配していた、私の居場所・・。

無くなってなんか、いなかった。
< 79 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop