私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
「あの、僕たちからも、牧師さんにひとつお願いがあるんです」

「はい・・何でしょうか?」

そう尋ねた牧師さんに、彼がバッグから何かを取り出した。

「蓮斗、それって・・」

彼が手にした水色の箱。

「そう、俺たちの結婚指輪だよ」

そう言って、彼は箱を牧師さんに渡した。

「僕たち、入籍はしたんですけど、いろいろあって結婚式ができていないんです。
良い機会なので、もし可能なら指輪の交換をさせてもらえたらと」

「そうでしたか。それならぜひやりましょう」


牧師さんが私たちふたりの名前を確認して、リハーサルという名の結婚式が始まった。


「新郎 坂本蓮斗さん、あなたは中村紗絵さんを妻とし、病めるときも健やかなるときも、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」

「はい、誓います」


「新婦 中村紗絵さん、あなたは坂本蓮斗さんを夫とし、病めるときも健やかなるときも、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」

「はい、誓います」


「では、指輪の交換を。まずは、蓮斗さんから紗絵さんに」

「はい」

左手の薬指に、スルスルとプラチナの感触が伝わる。

「蓮斗ありがとう」

小声でささやくと、彼も小さく頷いた。


「続いて、紗絵さんから蓮斗さんに」

「はい」

いつも優しく包んでくれる手を取り、薬指に指輪を滑らせる。

「ありがとう、紗絵」

知らず知らずのうちに涙があふれ、彼の指がそっとすくってくれた。


「では、誓いのキスを」
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