冷血公爵様が、突然愛を囁き出したのですが?
Side アレクシア公爵
「マリエーヌ……君を愛している」
その名を呼ぶこと。
その言葉を伝える事を、僕がどれほど切望していたか、君は知る由もないだろう――
僕は一度死んだ。
今は二度目の人生を歩んでいる。
前回の人生で、僕はある大きな不運に襲われた。
それは原因不明の高熱が治まってから、一週間後の出来事だった。
僕は馬車に乗り、隣町にある公爵領地の視察へと向かっていた。
だが、山中を走っている時に土砂崩れに巻き込まれ、馬車は大量の土砂によって押し潰された。
幸か不幸か、命は助かったものの、目を覚ました僕の体はピクリとも動かなかった。
目と口だけはゆっくり動かすことが出来た。だけど言葉は思うように発せられない。どう頑張っても、わずかに呻くような声しか出す事が出来なかった。
最低限の生きるためだけの機能を残して、僕は一人では何も出来ない体になっていた。
僕を診察した医師が、諦めた様に首を振り、
「恐らく脊髄と脳を損傷した影響で体が麻痺しているのでしょう。残念ですが、今の医療では回復は見込めません」
唯一の肉親である僕の弟にそう説明し、医師は早々に去って行った。
お金ならいくらでも用意するからなんとかしろ! このヤブ医者め!
そう罵倒してやりたかったが、やはり体は動かない。
あまりにも無力な自分に激しく苛立ちながらも、どうする事も出来なかった。
僕が必死になって守ってきたこの地位も、築き上げた膨大な財産も全て、今の僕には何の価値も無いものになった。
そしてこの時から、僕の地獄の日々が始まった。