大好きな人。
新しい学校での生活にもだんだん慣れてきた。
今日の授業がおわり、ぶかつにいこうとおもったが、今日の部活は雨で中止らしい。
そりゃそうだ。
こんな雨でできるわけが無い。
もっと雨が強くなりそうなので、急いで家に帰る。
家に着いて、部屋の中に入ると誰もいなかった。
お兄ちゃんはまだ帰ってきてないのだ。
雨が降っているといつもあの時を思い出してしまう。
少しの雨ならまだしも今日のような雨だとすごく辛い。
雨はだんだん強くなり、私は怖くて怖くて仕方なくなった。
床に座って毛布を体に巻き、耳を塞いで怖くないようにしていたのに涙が止まらなくなった。
雷もなり始めて私は泣き崩れた。
『お兄ちゃん早く帰ってきて』
そう思った。
でも最悪の事態を想像してしまった。
そのせいでもっともっと涙が溢れて嗚咽がもれる。
10分くらいたった頃、ドアが開く音がした。
お兄ちゃんだ。
安心してもっと涙が溢れた。
「結、1人にしてほんとごめんな」
お兄ちゃんは私のことを抱きしめてくれた。
もっともっと涙が溢れる。
「怖かったよな、もう大丈夫だよ」
そう言ってお兄ちゃんは背中をさすってくれた。
「こわかっ、た」
嗚咽混じりに私がそういうとお兄ちゃんは
「大丈夫だよ、もう大丈夫だからな」
と優しい声で返してくれた。
呼吸がなかなか整わなくて苦しかった。
過呼吸になってしまいそうだった。
「深呼吸しよーな、大丈夫だからな」
その優しい声にどんどん楽になってきた。
お兄ちゃんの安心感で力がだんだん抜けていく。
お兄ちゃんの膝の上で抱きしめられた。
「あのね、お兄ちゃんが帰ってこなくてもしかしたらって考えちゃったの」
私がそういうとお兄ちゃんは頭を撫でて
「ほんとにごめんな、大丈夫だから」
「もしお兄ちゃんまで、、、」
「絶対そんなことないからな、大丈夫だよ」
するとお兄ちゃんはまた口を開いた。
「パパもママもきっと天国で見守ってくれてるから」
「うん、そうだね」
私のパパとママは私が小さい時に死んでいる。
雨の日、雷にうたれて死んだ。
それ以来、雨が降ったらお兄ちゃんと一緒にいないと怖かった。
雨が降ってる日はお兄ちゃんがいつも抱きしめてくれてなでなでしてくれる。
そのおかげで怖い気持ちを無くすことができる。
「うっ、」
「大丈夫だよ、大丈夫だからな」
雷がなった。
お兄ちゃんに抱きつくとお兄ちゃんは優しくなでなでしてくれた。
「大丈夫だから、とりあえず風呂だけ入ってきな」
「うん」
私はお風呂に入っている時も怖かった。
今日は眠れない気がした。
「お待たせー、」
「俺、風呂入ってくる」
「うん、」
お兄ちゃんがお風呂から上がるまでの間、怖くて毛布をかけて耳を塞いでおいた。
しばらくして、誰かが私のことを抱きしめた。
お兄ちゃんだ。
怖かったけど耳から手をどかした。
するとお兄ちゃんが私の耳元で
「大丈夫か?」
と囁いた。
その声が優しくてかっこよくてもっと呼吸が早くなる。
「む、りぃ。怖、い。」
そう言って首を横に振る。
するとお兄ちゃんは
「俺がいるから大丈夫だよ、2人でいれば怖くないからな」
と私のことをもっと抱きしめた。
「うん、」
「大丈夫、大丈夫。」
「お兄ちゃん、」
「ん??」
「ありがとぉ、」
お兄ちゃんは私の頭を撫でてくれた。
「お前、ほんとに可愛いな」
心臓が多分一瞬止まった。
お兄ちゃんの顔を見ようとしたけど本当に心臓が止まりそうで見ることが出来なかった。
固まってしまって動けなかった。
「?ゆ、い?大丈夫か?」
お兄ちゃんの声でやっと動けた。
「あ、うん、大丈夫だよ」
「ほんと??」
「うん。ほんと」
「ならよかった、なんかあったら絶対言えよ、ずっとそばにいるからな」
「ありがと、!てか、お腹空いた!」
「おう、!飯食べるか」
お兄ちゃんはご飯を出してくれた。
いつもは向かいあわせで食べているけど今日は雷がなってすごく怖かったからお兄ちゃんの隣で食べた。
雷がなりそうで怖かった時、お兄ちゃんが私の耳をおさえた。
スローモーションに感じた。
するとピカリと空が光った。
怖くて仕方なかったけどお兄ちゃんが耳をおさえていてくれたから大丈夫だった。
「お前、大丈夫か?」
お兄ちゃんが私の耳から手をどけて心配してくれた。
「うん、お兄ちゃんのおかげでね」
「よかった、」
お兄ちゃんが私のことをなでなでしてくれた。
もっともっと好きになってしまう。
「おぉー、泣くな泣くな、大丈夫だから」
お兄ちゃんの声にびっくりする。
気づいたら嗚咽が漏れていて頬は濡れていた。
「うっ、」
「大丈夫、大丈夫、一旦落ち着こ〜な」
「うん、」
「大丈夫?怖かったか?」
「ううん、怖かったんじゃなくて」
「怖かったんじゃなくて?」
「よくわかんない、、、!」
「お前、まじで可愛いな」
「そぉー?」
照れてしまった。
お兄ちゃんがかっこよすぎて泣いてしまったなんて言えない。
「ご馳走様」
「ごちそーさま!」
手を合わせてご馳走様をするとお兄ちゃんがソファまで私をだっこで連れていってくれた。
「えっ、ありがと」
「お前、まじで可愛すぎんだよ」
笑顔で笑って見せたけど体の中は血がとんでもないスピードで動いていた。
するとお兄ちゃんがキッチンに歩いていった。
冷凍庫からアイスを取って私にくれた。
お兄ちゃんの隣で食べるアイスはいつもの100倍美味しかった。
アイスを食べ終わり、お兄ちゃんの膝の上に座る。
お兄ちゃんは頭を撫でてくれた。
「よし、寝るか」
「うん」
「おやすみ」
2人ともそれぞれ自分の部屋に向かう。
部屋に着いてベッドに入っても雷が怖くて寝れなかった。
急いでお兄ちゃんの部屋に向かう。
「お兄ちゃん、一緒に寝てもいぃ?」
「結?こっちおいで?」
お兄ちゃんに手招きされてお兄ちゃんのベッドに向かう。
「どーしたの??」
「雷が、」
「あー、怖かったな、大丈夫だよ」
「お兄ちゃんと一緒に寝てもいい?」
「俺は大丈夫だけどお前はいいの?」
「なにが??」
「男と一緒に寝るの嫌かなって」
「お兄ちゃんなら大丈夫」
「じゃあおいで」
お兄ちゃんのベッドに横になると布団をかけてくれた。
お兄ちゃんと同じ布団をかけている。
こんなに幸せなことはあるのだろうか。
雷がなると怖くなってお兄ちゃんのことを抱きしめた。
するとお兄ちゃんも抱きしめてくれた。
「大丈夫だからな」
その優しい声に心臓が溶けてしまう。
お兄ちゃんのことを抱きしめて丸くなって寝た。
お兄ちゃんも私のことを抱きしめながら寝た。
「おはよ」
「おはよう」
「お前、昨日ねれた?」
「うん!おかげさまでね!」
「よかったー、今日は晴れてるし大丈夫そうだな」
「うん」
「もしなんかあったらすぐ言えよ」
「わかった」
「学校行く時言って、俺も一緒に行くから」
いつもの会話のはずなのにドキドキが止まらない。
恋してるからだ。
でも叶わない恋。
「お兄ちゃーん!学校行こー」
「おう!」
お兄ちゃんと一緒に家を出た。
「てか、今日の陸上部、長距離走るからな」
「まじ!?はぁ、」
「大丈夫だよ、みんな1年に合わせて走るから」
「えー、緊張する」
「大丈夫、大丈夫!」
今日、部活があると考えただけで嬉しかった。
長距離走は得意ではない。
でもお兄ちゃんも長距離を走る。
ということはお兄ちゃんが頑張っているところを見ながら私も頑張れる。
我ながら気持ち悪い考えだ。
「はい、それぞれの部活動など頑張ってください!さようなら!」
その先生の声に胸が高鳴る。
急いで体育着に着替え、誰よりも早く校庭に着いた。
「おー!結!来るの早いな」
「なんか授業が早く終わったの」
「そっか、みんな来る前に先に準備するか」
「手伝いたい!!」
「おう、ありがとな」
みんなのために先に動くお兄ちゃん。
もっと好きになる。
「じゃあ、これここに置いといて」
「うん、!」
お兄ちゃんと2人でいる時間が大好きだ。
「遅れてごめーん!」
「準備してくれてたの!?助かる!」
「まじでありがと」
たくさんの声が聞こえてきた。
先輩たちだ。
「1年生も手伝ってくれたの!?まじでありがと!!」
私はどう答えていいのか分からなくなったので軽く頭を下げておいた。
「よしっ!全員きた?はじめよー!」
お兄ちゃんの声でみんなが並ぶ。
挨拶をしていつものようにストレッチとアップをした。
「今日は長距離走ります!
2、3年は1年に合わせて走るように!」
走り始めると私たちに合わせてみんなが走ってくれた。
長距離なんて久しぶりですぐに疲れてしまった。
「結、大丈夫か?ゆっくりでいいからな」
お兄ちゃんだ。
お兄ちゃんは隣で走っている。
その姿を見るだけで頑張れる気がした。
ラスト1周。
もう死にそうだった。
周りの先輩たちの余裕そうな顔を見ると
焦りはじめた。
「結、頑張れ、あと少しだからな」
でもこの優しい言葉に元気をもらった。
「終わりー!!みんなお疲れ様!」
やっと終わった。
息が切れて死にそうだった。
なのに先輩たちは全然疲れていなかった。
気持ち悪くなってきてベンチに座って休憩した。
すると隣に誰かが座った。
具合が悪くて顔を上げることすら出来なかったけど誰なのかすぐにわかった。
「結、大丈夫だよ、深呼吸忘れずにな」
背中をさすってくれている。
大好きなお兄ちゃん。
「今日は早く終わることになってるからもうすぐ帰えれるよ」
「ほんと?よかった」
よかった、と言ったけどもうお兄ちゃんの走っている姿を見れないとなると正直悲しかった。
帰り道、お兄ちゃんがかっこよすぎてもっと好きになる。
「お兄ちゃん、好きな子に告白しないの?」
「えっ、するわけねーよ」
「へー、もったいな」
「なにが?」
「なんでもない」
お兄ちゃんが告白したら絶対OK貰える、
なんて言えるはずない。
「お前こそ、好きな人いないの?」
目の前にいる。
でもそんなこと言えない。
「陽斗先輩が好きだったのにお兄ちゃんだったから今はいないよ」
「ふーん、」
しばらくしてお兄ちゃんがまた口を開いた。
「俺さ、好きな人に告ろっかな、」
「え!?!?」
「何驚いてんの?卒業式に告る」
「まじか、頑張って!」
「おう、ありがとな」
きっと結ばれるだろう。
お兄ちゃんが幸せになってくれるのは嬉しいけど少しだけ辛い。