大好きな人。
今日も部活。

10回以上は部活に行ったからだいぶ慣れてきた。


校庭に行くと2年生しかいなかった。


お兄ちゃん達はいなかった。


「1年生に一応説明しとくと3年生は受験勉強とかがあって忙しいから基本来れなくなります!」


心臓が崩れた気がした。


受験のことを忘れていた。



家でいくらでも会えるから部活なんて……
と思っていたけど結局は家でも勉強するんだ。


もういつものようにお兄ちゃんと一緒に遊べなくなってしまう。


辛かった。

その場で泣きそうになってしまった。



家に帰っても
「おかえり」
という声は聞こえなかった。


でもお兄ちゃんの靴はある。

お兄ちゃんの部屋の電気はついていた。


勉強していて私に気づいていないんだ。


勉強は頑張ってほしいけど少しだけかまってほしかった。


自分の部屋に入ってたくさん泣いた。


いつもお兄ちゃんと遊べると思ったら大違いなんだ。


泣き崩れてもう動けなかった。


そんな日が何日も続いた。


そんなある日、ふと思った。


私がお兄ちゃんを支えないと。


お兄ちゃんはきっと辛いはずだ。

だから私がサポートしないと。


そして夜食をお兄ちゃんの部屋に運んだりそんなことしか出来ないけどお兄ちゃんの支えになれるように私なりに頑張った。


でも、お兄ちゃんはもう私の事なんか忘れている。


もう辛すぎて死にたくなった。

でもお兄ちゃんの方が辛いはずだと自分に言い聞かせる。





今日も一日お兄ちゃんと話すことはなかった。


でももうすぐ受験本番。


あと少しだから今はお兄ちゃんを応援しないと。


お兄ちゃんが頑張っているんだから仕方ない、と自分に何度も何度も言い聞かせたけど涙は止まらなかった。



お兄ちゃんと半年も話せないでいるのは思ったよりも辛かった。


泣き崩れていて気づいたら朝だった。


こんなこと初めてだ。


お兄ちゃんの勉強している音は一晩中止まることは無かった。


つまりずっと勉強しているということだ。


いったいお兄ちゃんはどんな学校に行こうとしているんだろう。


相当頭がいい所なんだろう。



学校で友達に「大丈夫?顔色悪いよ」
と心配された。


昨日ずっと泣いていたからだ。


笑顔で「大丈夫!」
とこたえたけど、結局保健室行き。



「顔色わるいねぇー、どーしたの?」


保健室の先生にそう聞かれた。


「別に何も、、、」


「そんなことないでしょぉー!あっ、確か3年生にお兄ちゃんいるわよね?」


「はっ、い」


ついに涙が止まらなくなった。

昨日沢山泣いたはずなのに。


「あー、そーゆーことね、結ちゃん大丈夫だからね。お兄ちゃんが受験だからか、」


「なんでっ、わかる、の?」


「去年、全く同じ子がいたからねぇ、
その子はお兄ちゃんの事が大好きでね、
お兄ちゃんが受験の時体壊しちゃって」


「そんなこと、あったんですね」



「もうすぐお兄ちゃん来ると思うよ」


「え!?なんで、?」


「お兄ちゃんね、勉強しすぎでよく体壊してるんだよ」


「そーだったんですね」


お兄ちゃん、やっぱり辛かったんだ。

でも、わがまま言うともっとかまってほしい。


お兄ちゃんは頑張りすぎで体を壊しているというのに私は自分のことしか考えられない。


最低だ。



「しつれーします」


「お、陽斗くん、妹来てるよ」


「えっ?」


「お兄ちゃん。。。。」


「結…、結!!」


「お兄ちゃん!!」


「ずっと構ってやれなくてごめんな、
てか、なんで保健室いんの?体調わるい?」


「昨日、寝れなくて」


「寝れなかったんじゃないだろ、
ずっと泣いてたから寝てないんだろ」


「なんで??しってるの?」


「勉強してる時、隣から結が泣いてる声聞こえてさ」


「ごめん、勉強の邪魔して」


「ううん、でも、」


「で、も?」


「でも、構ってあげられないかもしれない」


「うん、大丈夫だよ、お兄ちゃんが1番頑張ってるから」


「結、、、ごめんな。ほんとにお兄ちゃん失格だよな」


「そんなことないよ」


わたしがそう言うとお兄ちゃんに抱きしめられた。


あぁ。
これだ。
久しぶりの感覚。

これを当たり前だと思っていた自分に腹が立つ。


でもお兄ちゃんの受験が終わるまでもうこんなことはないだろう。


そう考えるともう生きていける気がしない。







もう部屋から出たくない。


もうすぐ学校に行く時間なのに。


今日は行かなくてもいいや。


自分を甘やかす日にした。


お兄ちゃんが家を出てから私はこっそりお兄ちゃんの部屋に入った。


机にはたくさんの勉強道具。


お兄ちゃんはいったいどんな学校に行きたいのだろう。


しばらくお兄ちゃんの部屋を見ていると写真が置いてあった。


でもポツポツと濡れたあとがある。


その写真はお父さんとお母さん、そして私とお兄ちゃんが映っていた。


これ以上見たらダメだ。


考えたらダメだ。


自分にそう言い聞かせたけど言うことを聞いてくれなかった。


この写真はお父さんとお母さんが死んだ日に撮った写真。


死ぬ2時間前に。


濡れているのはきっとお兄ちゃんがこの写真を見て泣いていたんだろう。


雷がなっていた日の夜を思い出す。


お兄ちゃんが抱きしめてくれた。


お兄ちゃんが優しく私のことを落ち着かせてくれた。


あぁ。


あの時、お兄ちゃんもきっと辛かったんだろう。


なのに私のことを。。。。


やっぱりお兄ちゃんの事が大好きだ。


今すぐ抱きしめてほしい。


そんなわがまま言っちゃいけない。


自分でもわかっている。


お兄ちゃんの部屋から枕を取って自分の部屋に戻る。


気持ち悪いとわかっているけどその枕に抱きついた。


お兄ちゃんの匂い。

お兄ちゃんの感覚。


大好きだ。


世界で1番好きな人。


それはお兄ちゃん。


お兄ちゃん。卒業式の日に告白する予定、
取り消してくれないかなぁ。





珍しく、夜中にお兄ちゃんの勉強している音が聞こえなかった。


気になりすぎてお兄ちゃんの部屋に入ってしまった。


すると聞こえてきた声。


「なんで。。。もうヤダ。。やだ。。やだ。。無理だ。。俺。。。やだ。。」


お兄ちゃんの寝言?


お兄ちゃんは寝ていた。


寝言。


なにが嫌なんだろう。


「つら、い。。。でも結の、ために、、、」


え?


私のため?


なんで?


お兄ちゃんの顔を見ると目元が濡れていた。


泣いている。


でも寝ていて寝言を言っている。


するとお兄ちゃんのスマホがなった。


友達からのメッセージで「大丈夫か?なんかあったら言えよ」
との事だった。


気になり過ぎでお兄ちゃんの手を使い、指紋認証でスマホを開いた。


見てみるとお兄ちゃんと友達の会話で信じられない物があった。


『ちょっと相談乗って欲しい。
おれ、受験無理かもしれない。もう辛い。
でも妹のために頑張らないとだよな。
俺どーしたらいい?
もう諦めたい。でもそしたら妹が。』


お兄ちゃんの寝言と全て繋がった。


でも受験を私のために頑張る理由がわからない。


どうして私のために頑張るのか分からなくて一晩中考えた。


でも何もわからない。


でもお兄ちゃんが少しでも私の事を考えてくれてると思うとすごく嬉しかった。




受験1週間前。


お兄ちゃんは毎日私が寝るまで勉強していて朝起きるとお兄ちゃんはもう勉強を始めていた。


お兄ちゃんはもしかしたら寝ないで勉強している可能性がある。


私は少しでもお兄ちゃんの助けになりたい。


だからお兄ちゃんの行きたい学校を知りたいのだ。


でも全然わからない。


そう考えながらお兄ちゃんのことを見るとお兄ちゃんは起きていて私のことをじっと見つめていた。


「お兄ちゃん!?ご、ごめん。勝手に部屋入って」


「それはいいんだけどさ、お前、なんで泣いてんの?なんかあった?」


お兄ちゃんに言われて目の下を触ると湿っていた。


「ううん。なんもない。」


そう言って部屋を出ようとするとお兄ちゃんに手を引っ張られた。


「どーした?ほんとにお前大丈夫か?」


「うん。大丈夫だから。離して」


「だめ。どーしたのか言って」


「。。。お兄ちゃんのメッセージ。。。。」


「あぁ。見ちゃった?」


「うん。ほんとごめん。」


「別にいいよ、でもお前が心配」


「え?」


お兄ちゃんの胸の中に入ったのは次の瞬間だった。


手を引っ張られて抱きしめられた。


この久しぶりの感覚に涙が止まらなくなった。


「ぅ、ほんとにごめんな。おれ、もっと頑張るから」


「お兄ちゃん。?」


お兄ちゃんの嗚咽が聞こえてきた。


2人とも泣いていて抱きしめあっている。


お兄ちゃんのことが大好き。


その想いが強くなる。


「俺、勉強する時、お前のことずっと考えてるよ。勉強のモチベにもなる。ほんとにありがとな。あと、結に心配かけてごめんな」



「私、お兄ちゃんはもう私の事忘れてるとおもって、こわかった、寂しかった。」


「ほんとごめんな。おれは結のこと愛してるからな」



「うん。そろそろ離して?」


「あぁ、ごめん」



強いハグから解放されてお兄ちゃんの顔を見ると涙でいっぱいになっていた。



「お兄ちゃん。受験がんばれ!何かあったらすぐ相談してね!」



「結。ありがとな!おれ、受験頑張る」







受験まであと2日。


お兄ちゃんが受かるように願いの叶う音楽やおまじないなどわたしにできることをやりまくった。



大好きなお兄ちゃんの為だもん。



お兄ちゃんが行きたい学校に行ってくれれば私は幸せだ。


「結!おれさ、偏差値行きたい学校と同じまで上がった!」


「え!?すご!?」


「じゃあ、勉強してくる!」


「うん!頑張って!」



お兄ちゃんと会話することがどんどん増えていった。


部活のこともお兄ちゃんは聞いてくれて前より余裕が見えた。


そういえばお兄ちゃんは卒業式に好きな人に告白するって言ってたっけ。


告白しないで欲しいのが本音だ。


告白したらお兄ちゃんが誰かのものになっちゃう。


私の私だけのお兄ちゃんでいて欲しい。


他の女の人のものなんかにならないで。


私のことをずっとずっと守って。


ずっとずっと私のことだけを愛して。


こんなメンヘラみたいな願いを毎日毎日繰り返し続けていた。




「じゃ、行ってくる」


「うん!頑張って!ずっと応援してるね!」


「おう、ありがとな」


お兄ちゃんが玄関のドアを開けたところで大事なことを思い出した。



「あっ!お兄ちゃんまって!」


「ん?」


「はい、これ!私が作った受験合格のお守り!これで今日の受験頑張って!」


「すげー!ありがと!」



お兄ちゃんはお守りを受け取り、笑顔で
家を出ていった。


お兄ちゃんがいない間、ずっとずっと神様に向かってお祈りをしていた。


『お兄ちゃんがいい結果を出せますように』


何回同じことを願ったことか。


お兄ちゃんがどうかどうか受かりますように!!!!
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