隣人さん、お世話になります。
ドキドキの一夜が開けて、通常通り大学へ行きバイトにも行く。
出掛ける前に業者が家の中に入ってるのを見て、あとどれくらい片桐さんの家に居られるんだろうなんておかしな事を考えた。

「なんか少し寂しいかも」

最近の私はおかしいんだ。

バイト帰り、久しぶりにコンビニに寄った。 「いらっしゃいませ」とその声に聞き覚えがあって顔を向けたら、レジに居るのは毎日顔を合わせる片桐さんじゃないか。

「ええっ!? 片桐さんってここでバイトしてたんですか?」

そう駆け寄って聞けば驚いていて、「気付いてなかったの?」なんて言われる。
ブンブンと首を縦に振った。

「実は引越してきて直ぐに俺は間宮さんだって気づいたんだけど。 夜遅くにコンビニ来る女の子ってのも珍しいから。あ、一度値引きシール貼ったことあるよ」


値引き?

『あのすみません! これも値引きってされますか?』
『….え、ああ、はい。しますね』
『じゃあ待ちます』
『………』


うわー、思い出した。
値引きシールを貼っていた店員さんに聞いて、お仕事してる真横でずっと待ってたら、『どうぞ』って多分順番飛ばして貼ってくれたんだよねあれ。

「その節は美味しくいただきました」
「ぷっ、それは良かったです。あ、今日もお弁当?」
「はい!」
「丁度これからコレ貼るとこ」

ニッと悪戯っぽく笑う片桐さんは、レジから出てパッパッパッと値引きシールを貼っていく。
「どれでもどうぞ」って、どれもよく私が買うやつだ。 まるで贔屓してもらってるようで擽ったい。


「少しだけ待っていられる?」

レジを通しながらそう言われ、首をかしげると「もうすぐ上がりだから。一緒に帰ろうか」だって。
なんかそれって、まるでこ、こ、恋び……ボンッ!!

「間宮さん?」
「はひっ、まっ、待ってます!」
「はは、うん」


おかしいおかしい! なんかおかしい!!
片桐さんの仕事が終わるのを待ってる少しの時間でもソワソワして落ち着かなった。
「お待たせ」と出てきた片桐さんにもドキドキして、私の歩幅に合わせて歩いてくれるのとか車道側をさりげなく歩いてくれてるのとか、それらの行動がすべて嬉しくて、帰り道殆ど何を話したか覚えていなかった。
帰ってきてからもそうで、多分私が先にお風呂入らせてもらったり、髪を濡らしたままでてきたら「濡れてる。風邪引くよ」と言ってタオルで拭ってくれたような。
すごくガシガシされたから少し痛かったけど、でもなんか二へへって笑ってしまう。

夜寝る時も片桐さんが私の方に背中を向けて眠っていたら、狭いんだから平気だよねって理由を探して丸まった背中にピタリとおでこをくっつけてみた。
落ち着く、ドキドキするのに、落ち着くってのがまた不思議。

ああ、私おかしくなってしまったのかも……

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