男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
プロローグ 私が『エリオ』を名乗るまでのこと
 私の両親は、勇者と聖女だった、とその人は言った。

「生きていて欲しかったから――最大の禁忌をおかした」

 それは、死産だった我が子を生き返らせたこと。

 どうしても死んで欲しくなかった。その二人の想いが、子に宿った魔力と引き換えに命を黄泉から引き戻した。

 海を渡ったその遠い国では、確認されたことのない禁断の魔法だったらしい。

 あり得ない出来事、だから禁忌に指定されていた。想っただけで魔力が動いた――彼女の両親は、それくらい特別な人達だったのだ。

「だからな、捨てられたとか、愛されていないとか思わないで欲しいんだ」

 そんなこと思ったことがなかった。

「ははっ、お前の赤い髪は母の聖女譲り、赤い瞳は父の勇者譲りなんだぜ。どちらの綺麗な真紅も受け継いで良かったな」

 彼は傍若無人な〝師匠〟だったけど、二人を語る時の言葉や、声からも好きだったことが伝わって来た。

 その二人からいったん離れることが、どれだけ辛いかも理解していた。
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