男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
 サポートするはずだったルディオは「名案だ」と言ったフィサリウスの指示で、待ちとなったエリザの相手を任された。彼は眉を寄せてテーブルを睨みつけていた彼女を横目に眺めながら、呑気に菓子をつまんでいる。

「だから、ジークハルト様の症状だよ。ルディオには話してあるけど、昨日まで試してみたけど結果は無反応だった!」

 思わずムキーッと言い返したら、ルディオが棒読みで「おー」と言った。そのまま彼の口に吸いこまれたクッキーが、さくりと立てる音が実に美味しそう――ではなく、腹立たしい。

 この野郎と思って睨み付けたら、軽く謝罪するように肩をすくめられた。

 舞踏会の翌日から昨日までの間、服の上、素手で掌に触れる、など色々と試していったが、ジークハルトの身体に異変は起こらなかった。

 エリザは治療として、積極的に公爵邸や職場を歩き回るように指導していた。すれ違うメイドに怯えを隠した笑顔で挨拶をするたび、ご褒美としてキャンディーをあげる日々が続いている。
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