男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
 会って数日もしないうちに、ジークハルトは、エリオが自分の治療係であることが誇らしくなっていた。

 いつでもそばにいて、彼のことを考えてくれていることが嬉しい。

 けれどエリオが舞踏会までついてきてくれた時、ふと、もしかしたら彼の魅力に気付く人間が他に出てくるのではと不安を覚えた。

 ハロルドと楽しそうに話すエリオを見た時、なぜだか胸がざわついた。

 エリオは気付かれていないと思っているだろうが、妖精だとか言われている伯爵令嬢と話している時、可愛らしいと好印象を覚えている彼にもやもやした。彼女自身がエリオに頬を染めたのを見た時、憎悪のような感情を覚えた。

(――彼は、僕の治療係だ)

 早く、その伯爵令嬢から引き離したいと思った。

 エリオは、男の子だけど甘いものも好きだ。

 年上とは思えないほど、分かりやすいくらい表情がころころと変わる。

 柔らかいケーキがエリオの小さな口の中に消えて行くのを見て、ジークハルトは、なんとなく彼の歯と舌で食されるケーキを想像した。そうしたら、勧められるまま同じケーキを取ってしまっていた。
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