男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
「おや? 珍しいね。物想いに耽ってこの状況を忘れていたのかい?」
「そのようです」

 ジークハルト自身、初めてのことだったので思案顔で顎を撫でた。

「こういうことも、あるものなんですね」
「どうかな。私からしてみると、あり得ないものを見せられた気がするけど――そういえば、ここ最近は女性からの評判も良いと聞いたよ。エリオは良い仕事をしてくれているようだ。彼は君に、いったいどんな不思議な魔法を使ったんだい?」

 彼は興味津々といった様子だが、とくに裏技らしい治療方法は行われていない。

「残念ながら、あなたが興味を引くことは何もないですよ。エリオは僕の治療に、魔法は使っていません」
「そんなのは知ってるよ、彼は、魔法は使わないだろうね」

 確信がある声を、不思議に思う。

 するとフィサリウスが、からかうような声に戻して別の話を振ってきた。

「僕の予想が正しければ、君はさっき彼のことでも考えていたんだろう?」
「よくわかりましたね。そうです」
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