男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
 実をいうと、やたら美形なので、ジークハルトのこの『ご褒美の抱擁』とかは、やめてもらいたいのが本音だった。

 最近、とくに柔らかく笑うようになった彼からのスキンシップは、鋼の心を持ったエリザも動揺させた。

 膝の上にのせてケーキを食べさせたり、してきたせいかもしれない。

 それを人に見られたことで、ちょっと彼のことを意識してしまっているのかも――。

(治療係がどきどきするのはアウト! うん、だめ絶対! 私はジークハルト様に男だと思われて信頼されている治療係!)

 エリザはどっどっとはねそうになる心臓を、どうにかそう言い聞かせて凌ごうとした。

 ジークハルトは魅力的な美青年である。

 選ぶ女性に困らない理想的な騎士様ぶりは、出歩く王宮内で、全ての女性の熱い視線を集めていることからも察せる。

 なのに、彼は女性達の視線も無視して『小さな少年の治療係』を慕ってくるのだ。

(せっかく呪いが解けても、妙な噂が飛び回ったら彼の結婚が遅れる……!)

 そうなったら、まずい。

 依頼者のラドフォード公爵も、治療が成功したら、跡取り息子に結婚をして欲しいと考えていることだろう。

 しかしながらジークハルトのこの『呪い』の効果による懐きっぷりのせいか、最近王宮の一部の女性達の間で、『彼と治療係が禁断の愛を通わせている』といった噂が出始めているらしいのだ。
< 196 / 392 >

この作品をシェア

pagetop