男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
「そ、そうですか……な、なら、私、もうどいてもいいですよね?」

 この状況をとりあえず脱したい。エリザは恐る恐る抜け出しにかかったのだが、ぼすんっとジークハルトが千生に寝転がったと思ったら、彼の方へ背中を向けられて、そのままぎゅっと抱き締められてしまった。

(え――えええぇっ!)

 なぜ、と疑問符で頭がいっぱいになる。

「混乱しているんですか?」
「は、はい、それを自覚していながらなぜ放さないんですかね……?」

 彼の顔が見えないのがかえって怖いなんて、つい直前までの状態からすると妙な感想だとは思うのだけれど。

 胸に抱え込んでいる大きな腕とか、頭にかかる吐息がものすごく落ち着かないのだ。

(そもそもこれバレない……!? 私、平気? じゃなくって、ジークハルト様大丈夫!?)

 頭の中が大変混乱しているのは自覚していた。

 彼の腕はしっかり身体の前に回っているし、先程とは別の意味でどきどきした。

「今日の分のご褒美だけでもください。今までで一番頑張りましたよね?」
「な、なるほど、これ、ご褒美なんですね……」

 抱き締めるのがご褒美になるのか?と疑問が沸く。

(つまり添い寝を希望されてる? ジークハルト様って案外ぱっと起きられないお方なんじゃない……?)

 そう考えてみると――まぁ、納得する。

 ひとまずのところ性別が違うということは察知されていないようだし、もうひと眠りを付き合うくらいなら、いいだろう。
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