男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
 公爵邸の主要な使用人を知らないようでは困る。せめて屋敷内を取り仕切る立場にいる女性くらいは紹介して欲しいと頼むと、あっさり「分かりました」と返事があった。

「まずは侍女長を紹介します」
「え、いいんですか?」
「実は、彼女は僕が産まれた時から世話になっているので、近付くだけであれば大丈夫なんですよ」
「はぁ、なるほど? ……逃げだしたい衝動はないということですか?」
「…………震えは出ません」

 進んで顔を会わせられるほど平気ではない、ということのようだとエリザは解釈した。

 侍女長のもとへ案内されながら、エリザは毅然とも見えるジークハルトの綺麗な歩き姿をこっそり眺めた。

(公爵様が屋敷内に罠を張れたのも、彼が事前に歩く範囲をセバスチャンに伝える環境があったからできたことなんだなぁ)

 症状を確認できるように手配したというから、その人達は全て女性だろう。
< 69 / 392 >

この作品をシェア

pagetop