王太子の婚約者は、隣国の王子に奪われる。〜氷の公女は溺愛されて溶けていく〜
出逢い
彼女と目が合ったとき、時が止まった。
(なんて美しいんだ……!)
澄みわたる湖のごとく静かな瞳。聡明な眼差し。
湖畔に咲いた可憐な花のような唇。
月の光を集めた銀の髪。
絹のようにきめ細かな白い肌。
それらが奇跡的に集まって、彼女の輝く美貌を作っていた。
彼は目が吸い寄せられて、離せなかった。
ラルサス・ヴァルデは一瞬にして彼女に囚われた。
──それなのに……。
「こちらは私の婚約者、シャレード・フォルタス公爵令嬢だ」
カルロ・ファンダルシア王太子の言葉に、ラルサスは目を瞠った。
(婚約者!?)
今度は別の意味でラルサスは動きを止めた。
*――***――*
巨大なシャンデリアがまばゆい光を放ち、豪奢に着飾った人々を照らす。
壁に掛けられた数多の鏡がその光を反射し、その合間に飾られた華やかなタッチの絵画、金のレリーフがゴージャスな空間を演出していた。
そこは、ファンダルシア王国の宮殿。
その中で、ラルサスを歓迎する舞踏会が開かれていた。
ラルサスは隣国ヴァルデ王国の第三王子で、この国に留学に来た。
王や王妃に続いて、カルロ王太子と挨拶を交わしたところ、横にいたシャレードに目を奪われたのだった。
(婚約者……)
ラルサスはもう一度、失望とともに心の中でその言葉を繰り返した。
考えてみれば、当たり前だった。
この国の王女は幼く、舞踏会には来ていない。だとすれば、王太子の隣にいるのは、彼の婚約者しかいない。
固まった彼に「なにか?」とカルロが問いかけた。
「いえ、失礼いたしました。こんな美しい方を見たことがなくて……」
「シャレードは見た目だけはいいからな」
カルロはあざけるように笑った。
(見た目だけは?)
その言いぐさに、ラルサスは違和感を覚える。
シャレードは顔色を変えず、王や王妃はやれやれという顔をしたが、注意はしない。
つまり、この扱いは日常ということらしい。
(こんな公の場で侮辱を受けるのに慣れているなんて!)
ラルサスは初めて会った女性のために憤った。
シャレードをよく見ると、平静な顔をしながらも、耐えるようにグッと拳を握りしめている。
(慣れているのではない。傷ついているのを表に出していないだけだ……)
そう見て取って、ラルサスは彼女の矜持といじらしさを感じた。
『惚れちゃったのかよ、ラルサス。でも、人のもんみたいだぞ?』
『うるさい、フィル。わかってるさ、そんなこと。それにしても、なんて美しい人なんだ……』
ラルサスに付いている精霊のフィルがからかってきた。
フィルは手のひらに乗るサイズの男の子の姿をしている。ほのかに光りながら、ふわふわとラルサスの顔の辺りを飛んでいたが、その姿はラルサスにしか見えない。
フィルの軽口にまともに返せないほど、心奪われ、ラルサスはまたシャレードを熱い目で見た。
彼女はにこりと儀礼的な微笑みを浮かべた。
愛想笑いだとわかっていても、彼はまた見惚れてしまった。
(なんて美しいんだ……!)
澄みわたる湖のごとく静かな瞳。聡明な眼差し。
湖畔に咲いた可憐な花のような唇。
月の光を集めた銀の髪。
絹のようにきめ細かな白い肌。
それらが奇跡的に集まって、彼女の輝く美貌を作っていた。
彼は目が吸い寄せられて、離せなかった。
ラルサス・ヴァルデは一瞬にして彼女に囚われた。
──それなのに……。
「こちらは私の婚約者、シャレード・フォルタス公爵令嬢だ」
カルロ・ファンダルシア王太子の言葉に、ラルサスは目を瞠った。
(婚約者!?)
今度は別の意味でラルサスは動きを止めた。
*――***――*
巨大なシャンデリアがまばゆい光を放ち、豪奢に着飾った人々を照らす。
壁に掛けられた数多の鏡がその光を反射し、その合間に飾られた華やかなタッチの絵画、金のレリーフがゴージャスな空間を演出していた。
そこは、ファンダルシア王国の宮殿。
その中で、ラルサスを歓迎する舞踏会が開かれていた。
ラルサスは隣国ヴァルデ王国の第三王子で、この国に留学に来た。
王や王妃に続いて、カルロ王太子と挨拶を交わしたところ、横にいたシャレードに目を奪われたのだった。
(婚約者……)
ラルサスはもう一度、失望とともに心の中でその言葉を繰り返した。
考えてみれば、当たり前だった。
この国の王女は幼く、舞踏会には来ていない。だとすれば、王太子の隣にいるのは、彼の婚約者しかいない。
固まった彼に「なにか?」とカルロが問いかけた。
「いえ、失礼いたしました。こんな美しい方を見たことがなくて……」
「シャレードは見た目だけはいいからな」
カルロはあざけるように笑った。
(見た目だけは?)
その言いぐさに、ラルサスは違和感を覚える。
シャレードは顔色を変えず、王や王妃はやれやれという顔をしたが、注意はしない。
つまり、この扱いは日常ということらしい。
(こんな公の場で侮辱を受けるのに慣れているなんて!)
ラルサスは初めて会った女性のために憤った。
シャレードをよく見ると、平静な顔をしながらも、耐えるようにグッと拳を握りしめている。
(慣れているのではない。傷ついているのを表に出していないだけだ……)
そう見て取って、ラルサスは彼女の矜持といじらしさを感じた。
『惚れちゃったのかよ、ラルサス。でも、人のもんみたいだぞ?』
『うるさい、フィル。わかってるさ、そんなこと。それにしても、なんて美しい人なんだ……』
ラルサスに付いている精霊のフィルがからかってきた。
フィルは手のひらに乗るサイズの男の子の姿をしている。ほのかに光りながら、ふわふわとラルサスの顔の辺りを飛んでいたが、その姿はラルサスにしか見えない。
フィルの軽口にまともに返せないほど、心奪われ、ラルサスはまたシャレードを熱い目で見た。
彼女はにこりと儀礼的な微笑みを浮かべた。
愛想笑いだとわかっていても、彼はまた見惚れてしまった。
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