王太子の婚約者は、隣国の王子に奪われる。〜氷の公女は溺愛されて溶けていく〜
「ラルサスさま〜!」
「次の授業は音楽ですわ。ご一緒しましょう!」
「私もご一緒したいですわ!」

 休みのたびに群がってくる女生徒にうんざりしながら、ラルサスは作り笑いを浮かべた。
 ラルサスは留学とともに父王からの密命を受けていた。それを思うと情報収集のために多少は彼女たちに付き合わないといけなかった。
 彼としてはできるなら、物静かなシャレードと過ごしたかった。
 もちろん、シャレードは王太子の婚約者であるけれども。
 
 なにかとシャレードに声をかけるラルサスに、「氷の公女なんてつまらないでしょ?」「あんな冷たい人は放っておいて、私たちとお話ししましょうよ」と、令嬢たちが彼の袖を引いた。
 彼女らによれば、シャレードはその美貌と冷静で感情をあらわにしない様子から『氷の公女』と称されているようだった。
 本来、シャレードは公爵令嬢なので、王族を除くともっとも地位が高く、侮られる立場ではないはずだが、カルロが粗雑に扱う様子から、他の者もそれに倣うようになってしまったらしい。そのうち、婚約破棄されるとも噂されているそうだ。
 それを聞いて憤懣やるかたないラルサスはフィルにぼやいた。

『カルロはなにを考えてるんだ! 自分の妃となる人を大切にしないなんて!』
『ほんとだよね〜。僕、あの人きらい〜。ラルサス、奪っちゃえば?』

(奪えるなら奪いたいところだ)

 そんな想いはさすがにフィルにも告げられず、ラルサスは苦い笑みを浮かべた。
 公爵令嬢というのは王太子に対してそんなに立場が弱いのかと気の毒になる。
 彼の国では王族の力は強いものの、こうした理不尽は許されない。そんなことをすれば、王族といえども家臣から突き上げを食らう。こうしたことからも、この国の自浄作用はどうなっているのだと思ってしまう。

 見たところ、シャレードは常にひとりで行動していた。
 そこにラルサスがシャレードを気にする様子から、女生徒の彼女への風当たりがさらに強くなってしまったようだ。

(しまったな。まさか公爵令嬢を表立って批判する者がいるとは思わなかった)

 ラルサスはシャレードに申し訳ないことをしたと思ったが、あとの祭りだし、彼女を見ると相変わらず惹かれる気持ちを止めることはできなかった。結局、彼はことあるごとにシャレードに構った。
 シャレードは無下にするわけでもなく、かといって、歓迎するわけでもなく、クラスメイトとして、淡々と彼の相手をした。


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