王太子の婚約者は、隣国の王子に奪われる。〜氷の公女は溺愛されて溶けていく〜
『なにあれ』
あきれたようなフィルの声に、大いに同意して、ラルサスは顔をしかめた。
婚約者がいながら……いや、それ以前に公の場で王太子がこんな痴態をさらしていいものか。
そう思ったのだ。
『文化の違いか? うちの国ならあり得ない』
『ほんとだよね〜。しかも、シャレードがいるのにね』
よっぽど不快に思ったのか、フィルはカルロのそばに行き、彼の顔をポカポカと殴っている。
もちろん、ラルサス以外には見えないし、カルロは痛みを感じていないだろうが。
フィルの行動に笑いを噛み殺し、ちらっとシャレードを見ると、表情を変えずに目を逸らした。
(王族がこんな状態なら、あの噂も本当かもしれないな)
父王からの密命を思い浮かべ、ラルサスは暗い気持ちになった。
シャレードは、食堂のシステムについて説明しはじめた。
「こちらでお好きなメニューをお取りください。並んでない料理があれば、調理人に声をかけると、用意してもらえます。食べ終わりましたら、こちらにトレーを戻します」
「そうですか。シャレード様はなにを食べますか?」
「王子殿下、私に‘様’は不要です」
「それなら、私もラルサスと呼んでください、シャレード。ここでは身分は関係ないのでしょう?」
微笑んだラルサスに、シャレードは一瞬戸惑ったが、うなずいた。
ことさらに王子と呼び続けても、彼が皆に馴染めないと思ったのだ。
「承知しました、ラルサス様。私は日替わりランチにします」
「それでは、私も同じものにします」
チラチラと見られる中、二人は料理を乗せたトレーを持つと、窓際の空いている席に腰かけた。
少し陽射しがまぶしくて、シャレードが目を細めると、ラルサスもまぶしそうな表情をした。
「場所を移りましょうか?」
シャレードが気を使うと、ラルサスは首を横に振った。
まぶしいのは陽射しではなく、シャレードだったから。
「ここの陽射しはやわらかですね。私の国では苛烈で、とても日向にはいられません」
「ヴァルデ王国は気温が高いと聞きます。やはりこの国とは違いますか?」
「そうですね。ここよりずっと暑くて乾燥しています。緑もこんなにないですね」
ラルサスは窓の外に広がる中庭を愛でるように見た。
新緑が美しい時期だったが、ラルサスの瞳も同じ色をしているとシャレードは思った。
「食後に中庭に出てみますか?」
「はい、ぜひ!」
ふと思いついた提案に、うれしそうに笑みを浮かべたラルサスを見て、シャレードは胸の高まりを感じた。
常日頃ではありえないことだった。
互いの国の文化や風習の違いなどを話しながら、食事を終えた彼らは中庭に出た。
あきれたようなフィルの声に、大いに同意して、ラルサスは顔をしかめた。
婚約者がいながら……いや、それ以前に公の場で王太子がこんな痴態をさらしていいものか。
そう思ったのだ。
『文化の違いか? うちの国ならあり得ない』
『ほんとだよね〜。しかも、シャレードがいるのにね』
よっぽど不快に思ったのか、フィルはカルロのそばに行き、彼の顔をポカポカと殴っている。
もちろん、ラルサス以外には見えないし、カルロは痛みを感じていないだろうが。
フィルの行動に笑いを噛み殺し、ちらっとシャレードを見ると、表情を変えずに目を逸らした。
(王族がこんな状態なら、あの噂も本当かもしれないな)
父王からの密命を思い浮かべ、ラルサスは暗い気持ちになった。
シャレードは、食堂のシステムについて説明しはじめた。
「こちらでお好きなメニューをお取りください。並んでない料理があれば、調理人に声をかけると、用意してもらえます。食べ終わりましたら、こちらにトレーを戻します」
「そうですか。シャレード様はなにを食べますか?」
「王子殿下、私に‘様’は不要です」
「それなら、私もラルサスと呼んでください、シャレード。ここでは身分は関係ないのでしょう?」
微笑んだラルサスに、シャレードは一瞬戸惑ったが、うなずいた。
ことさらに王子と呼び続けても、彼が皆に馴染めないと思ったのだ。
「承知しました、ラルサス様。私は日替わりランチにします」
「それでは、私も同じものにします」
チラチラと見られる中、二人は料理を乗せたトレーを持つと、窓際の空いている席に腰かけた。
少し陽射しがまぶしくて、シャレードが目を細めると、ラルサスもまぶしそうな表情をした。
「場所を移りましょうか?」
シャレードが気を使うと、ラルサスは首を横に振った。
まぶしいのは陽射しではなく、シャレードだったから。
「ここの陽射しはやわらかですね。私の国では苛烈で、とても日向にはいられません」
「ヴァルデ王国は気温が高いと聞きます。やはりこの国とは違いますか?」
「そうですね。ここよりずっと暑くて乾燥しています。緑もこんなにないですね」
ラルサスは窓の外に広がる中庭を愛でるように見た。
新緑が美しい時期だったが、ラルサスの瞳も同じ色をしているとシャレードは思った。
「食後に中庭に出てみますか?」
「はい、ぜひ!」
ふと思いついた提案に、うれしそうに笑みを浮かべたラルサスを見て、シャレードは胸の高まりを感じた。
常日頃ではありえないことだった。
互いの国の文化や風習の違いなどを話しながら、食事を終えた彼らは中庭に出た。