王太子の婚約者は、隣国の王子に奪われる。〜氷の公女は溺愛されて溶けていく〜
校内案内
午後の授業が終わると、ラルサスは声をかけてくる女生徒に約束があるからと断り、シャレードのもとへ向かった。
昼休みを一緒に過ごしただけだし、特に変わったことは話していないのに、彼女との時間は穏やかで心休まるものだった。
(存在が落ち着いているからかな)
どちらかというと愛想のないシャレードだが、静かな物腰がラルサスには新鮮だった。
それだけ彼女に気がないということかもしれないが。
講堂、医務室、職員室、音楽室を回る。
王立とだけあって、それぞれの設備は贅沢で、音楽室などはしっかり防音がされているのはもちろんのこと、優れた音響を実現するために計算して作られていた。
「音楽室は放課後に申請すれば使用できます」
「シャレードはなにか音楽をされるのですか?」
「趣味でフルートを少しだけ」
「フルート! それはぜひとも聴いてみたい」
銀色のフルートを口に当てるシャレードを想像して、ラルサスは思わず興奮した。
しかし、彼女の答えはにべもない。
「人様に聴かせられるレベルではありません」
『や〜い、断られた〜』
『うるさいな。彼女は奥ゆかしいだけだ』
すかさずフィルにからかわれ、拗ねたような返しになる。
出会ったばかりで図々しいことを言ってしまったと、ラルサスは少し反省した。
「ラルサス様はなにか楽器をされるのですか?」
さすがに愛想がないと思い、シャレードが聞いた。
彼女の質問にラルサスはにこりとして答える。
「私はディルルバを少々」
「まぁ、貴国の伝統楽器ですね」
「知っておられましたか」
「もちろんです。いつか聴いてみたいと思っておりました」
音楽が好きなシャレードは楽器にも興味があった。
ヴァルデ王国から留学生が来るということで調べていた中に、ディルルバのことも書いてあった。
細長い胴体に弦が張ってあり、それを弓で弾くディルルバの絵を見て、どんな音を出すのか、気になっていたのだ。
めずらしく熱のこもったシャレードの話し方に、ラルサスは意外に思う。
それでつい、反省したばかりだというのに、誘うようなことを言ってしまった。
「私の拙い演奏でよろしければ今度お聞かせしましょうか?」
たしか暇つぶしのためにディルルバを持ってきていたなとラルサスは荷物を思い浮かべた。
『またまた〜、拙いなんて冗談を! 僕はラルサスの音、好きだなぁ』
フィルがディルルバを弾くしぐさをする。
実際、ラルサスはディルルバの名手と言われている。
めったに人前では披露しないが、ディルルバを弾く姿も音色もとても美しく、それを聴いた者は魅了され、心を囚われてしまうほどだった。
本当にディルルバが聴きたかったようで、シャレードが目を輝かせた。
静かな湖面に光が差したかのような、まぶしいくらい美しさが増したシャレードの表情に、ラルサスは目を瞠った。
ラルサスの反応に、『ぜひ』とうなずきかけたシャレードは、ハッと我に返り、「機会があれば……」とテンションを落として答えた。
光きらめいたシャレードの瞳は、もとの凪いだ湖の様に戻った。
ラルサスはそれを残念に思ったが、心には先ほどの表情が焼きついた。
昼休みを一緒に過ごしただけだし、特に変わったことは話していないのに、彼女との時間は穏やかで心休まるものだった。
(存在が落ち着いているからかな)
どちらかというと愛想のないシャレードだが、静かな物腰がラルサスには新鮮だった。
それだけ彼女に気がないということかもしれないが。
講堂、医務室、職員室、音楽室を回る。
王立とだけあって、それぞれの設備は贅沢で、音楽室などはしっかり防音がされているのはもちろんのこと、優れた音響を実現するために計算して作られていた。
「音楽室は放課後に申請すれば使用できます」
「シャレードはなにか音楽をされるのですか?」
「趣味でフルートを少しだけ」
「フルート! それはぜひとも聴いてみたい」
銀色のフルートを口に当てるシャレードを想像して、ラルサスは思わず興奮した。
しかし、彼女の答えはにべもない。
「人様に聴かせられるレベルではありません」
『や〜い、断られた〜』
『うるさいな。彼女は奥ゆかしいだけだ』
すかさずフィルにからかわれ、拗ねたような返しになる。
出会ったばかりで図々しいことを言ってしまったと、ラルサスは少し反省した。
「ラルサス様はなにか楽器をされるのですか?」
さすがに愛想がないと思い、シャレードが聞いた。
彼女の質問にラルサスはにこりとして答える。
「私はディルルバを少々」
「まぁ、貴国の伝統楽器ですね」
「知っておられましたか」
「もちろんです。いつか聴いてみたいと思っておりました」
音楽が好きなシャレードは楽器にも興味があった。
ヴァルデ王国から留学生が来るということで調べていた中に、ディルルバのことも書いてあった。
細長い胴体に弦が張ってあり、それを弓で弾くディルルバの絵を見て、どんな音を出すのか、気になっていたのだ。
めずらしく熱のこもったシャレードの話し方に、ラルサスは意外に思う。
それでつい、反省したばかりだというのに、誘うようなことを言ってしまった。
「私の拙い演奏でよろしければ今度お聞かせしましょうか?」
たしか暇つぶしのためにディルルバを持ってきていたなとラルサスは荷物を思い浮かべた。
『またまた〜、拙いなんて冗談を! 僕はラルサスの音、好きだなぁ』
フィルがディルルバを弾くしぐさをする。
実際、ラルサスはディルルバの名手と言われている。
めったに人前では披露しないが、ディルルバを弾く姿も音色もとても美しく、それを聴いた者は魅了され、心を囚われてしまうほどだった。
本当にディルルバが聴きたかったようで、シャレードが目を輝かせた。
静かな湖面に光が差したかのような、まぶしいくらい美しさが増したシャレードの表情に、ラルサスは目を瞠った。
ラルサスの反応に、『ぜひ』とうなずきかけたシャレードは、ハッと我に返り、「機会があれば……」とテンションを落として答えた。
光きらめいたシャレードの瞳は、もとの凪いだ湖の様に戻った。
ラルサスはそれを残念に思ったが、心には先ほどの表情が焼きついた。