ハライヤ!

水原知世、幼少期。

◇◆◇◆

小学校の休み時間。
教室の自分の席で、静かに本を読んでいる女子が一人。それがわたし、水原知世。

リボンもシュシュもつけずに、真っ直ぐに伸ばした黒髪。可愛いわけでもない、地味な顔。
いつもひとりぼっちで、いてもいなくてもどうでもいい存在。それがわたしの、クラスでのポジションだ。
転校してきたばかりの頃は、ちょっとは違ったんだけどね。

田舎町にある小学校の三年一組に転校してきてから、早一ヶ月。
振り返ってみたら、最初にこのクラスにやって来て「はじめまして」ってあいさつをした時が、みんなとの距離が一番近かった気がする。

だけどその距離はだんだんと開いていって、今ではすっかり孤立している。
わたしが変な子だって、バレちゃったから。

「なあ、首無し地蔵って知ってるか?」

本に書かれた文字を目で追っていると、不意に男子の声が耳に飛び込んでくる。
かすかに目を向けると、教室の真ん中で数人の男子が集まっていた。

「なんだよ、首無し地蔵って?」
「一丁目にある、首の無いお地蔵さんだよ。近くでよく事故が起きたり、触った人が次々にケガや病気をする、呪われたお地蔵さんなんだってさ。あと、幽霊が出るっても聞いたぜ」
「ははは、ウソくせー」

はぁ、男子ってどうして、そういう話が好きなんだろう。
もしかしたら、笑い事じゃすまされないかもしれないのに。
呪いや幽霊が本当に存在すると言うことを、わたしはよく知っているもの。

だけど友達同士で楽しく話すのは、ちょっぴり羨ましいかも。
だからこうしてつい聞き耳を立ててしまっていたのだけど、話をしていた中の一人が、こんなことを言い出した。

「なあ、呪いが本当かどうか、俺たちで確かめてみようぜ」
「お、いいなそれ」

え、本気? 
それは止めておいた方がいいんじゃないかな。
もしも本当に危険なだったらどうするの。
他人事とはいえ、ハラハラしちゃう。

どうしよう、止めた方がいいって、注意した方が良いのかな?

「おい、転校生」
「ひゃう⁉」

本で顔を隠しながらもんもんと悩んでいたけど、急に声をかけられてビックリ。
慌てて顔を上げると、そこには首無し地蔵の話をしていた男子がいた。

「なあ、俺たち今日の放課後、首無し地蔵ってのを調べに行くんだけど、お前も来ないか?」
「えっ?」

話しかけてきたその子は、たしかケンタくんだったかな。
彼はニタニタと、まるで面白いイタズラを考えたような笑みを浮かべている。

「お前、こういうの好きだろ。幽霊が見えるって、いつも言ってるもんな」
「——っ!」

別に好きじゃない。けど、幽霊が見えるというのは本当。
自分でも理由はわからないけど、何故か昔から幽霊とか妖怪とか、普通の人には見えないモノが見えちゃうの。

だけどそれは、あまり良いことじゃない。だってわたしがクラスで孤立しているのは、それが原因だもの。

みんなわたしの言うことを信じてくれなくて、おかしな奴だって言って笑ってる。
声をかけてきたケンタくんだって、決して仲が良いから声をかけて来たわけじゃなかった。

「一緒に行くよな? それとも、幽霊が見えるってウソがバレるから、行きたくないか?」
「う、ウソじゃないもん!」

ほらこの通り。
ケンタくんも他の子達も、わたしが困るのが楽しくて、意地悪してるんだ。

「だったら一緒に行って、見えるって証明して見せろよ」
「い、嫌だよ。そんな怖い所、行きたくないもの」
「ゴチャゴチャうるせーな。本当に見えるんなら、行って証拠を見せろよ。できないって言うなら、お前はウソつきだ!」

大きな声で怒鳴られて、思わず体をビクつかせれる。

ど、どうしよう。ここで断ったら、本当にウソつきにされちゃう。

それに、それにだよ。もしもその首無し地蔵が、危険なものだったら。
霊や妖の中には、人間を襲う悪いやつもいるの。
なのにその姿を見ることができないケンタくん達だけで行かせてしまったら、どうなるか分からない。
もしも何かあった時対処できるのは、姿を見ることができるわたしだけ。だったら……。

「……わかった。わたしも行く」
「おいおい、本当に行くのかよ」
「もし本当に幽霊が出たり呪いがあったら、教えてくれよな。ははははっ」

もう何とでも言ってよ。
ケンタくんたちのからかいを受け流しながら、ため息をついた。

首無し地蔵かあ。怖そうだけど、本当に大丈夫かなあ。
何も起きなければいいんだけど。

だけどそんな願いは、この後もろくもくずれさるのだった。
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