ハライヤ!
「妙ですね」
「な、何がだ?」
「何の関わりもないのに突然取り憑かれるなんて、普通はあり得ないのですけど。本当に心当たりはありませんか? お墓を蹴飛ばしたとか、外から何かを持ち帰ったとか?」
「う、うーん。それならもしかしたら、酔った勢いでついやっちゃった……かも?」
酔った勢いでお墓を蹴るなんてろくな大人じゃないって思われたかもしれないけど、この際それでも構わない。
何でもいいから、祓ってくれればそれで良いんだ。
「とにかく、その霊を呼んでみましょう。大場さん、そこに立って、動かないでください」
「ええと。こうかな?」
「はい。では、呼び出しますよ。迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ――現!」
俺に向けて何か印のようなものを結んだ瞬間、室内の温度が下がった気がした。
今は11月。もともと寒くなっては来ていたけど、まるで真冬のような寒気が、全身を襲う。
「み、水原さん。今のは?」
「霊を呼び出すため、術を使いました。……アナタが、大場さんに取り憑いている方ですね」
水原さんはそう言って俺……いや、俺の後ろの、誰もいない空間をじっと見つめている。
ひょっとしてそこに、アイツがいるのか? 怖くなった俺は水原さんを盾にするように、彼女の後ろに回り込んだ。
「私から離れないでくださいね。そこのアナタ、何故大場さんに取り憑いて……きゃっ!?」
そこにいるであろう幽霊に向かって手をさしのべた水原さんだったけど。まるで静電気を食らったみたいにバチッと手を弾かれ、同時にパンパンと言うラップ音が、部屋の中に響く。
この現象は俺でも知っている。ポルターガイストだ。
「ど、どうなったんだ?」
「霊を呼び出すことには成功しました。髪の長い、ベージュのジャケットを着た女の人の霊、間違いはないでしょう。けど彼女、冷静さを失って暴れているのです」
「だったら早く、地獄にでも送ってくれ!」
「地獄って、彼女はまだ……。とにかく、まずは大人しくしてもらわないといけませんね。迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ――滅!」
水原さんが手をかざした瞬間、一際大きなパンと言う音がして、今まで聞こえていたラップ音が、ピタリと止まる。
俺には何も見えなかったけど、水原さんがそこにいた霊を攻撃したのは、何となくわかった。
「やったのか? もう祓えたのか?」
「いいえ、弱らせただけです。けどこれで、暴れることはできません。これでようやく、話をすることができますよ」
「話って、そんなことしてる場合か! まだそこにいるのなら、とっとと祓ってくれ!」
「ですがどうしてこんなことをしたのか聞かないと、本当の意味での解決にはなりません。アナタ、名前を聞かせてもらえませんか?」
身を屈めて、そこにいるであろう霊に話しかける水原さん。
けど待て! 余計なことを聞くんじゃない!
彼女を見ながら、俺は焦りを募らせる。
このままじゃ知られたくない秘密を、暴かれると思ったから。
そうならないために、先生とやらも来ないよう画策したというのに!
だけどそんな思いも空しく、水原さんは聞いてはいけないことを口にした。
「寺田良美、それがアナタの名前ですね。では寺田さん、アナタはどうして大場さんに取り憑いたりしたんですか……えっ?」
ゆっくりとこちらを振り返る水原さん。
ポルターガイストが起きた時も冷静だった彼女の目は大きく見開かれていて、信じられないといった様子で俺に目を向ける。
そして……。
「寺田さんは、階段から突き落とされたと言っています。……大場さん、アナタから」
「な、何がだ?」
「何の関わりもないのに突然取り憑かれるなんて、普通はあり得ないのですけど。本当に心当たりはありませんか? お墓を蹴飛ばしたとか、外から何かを持ち帰ったとか?」
「う、うーん。それならもしかしたら、酔った勢いでついやっちゃった……かも?」
酔った勢いでお墓を蹴るなんてろくな大人じゃないって思われたかもしれないけど、この際それでも構わない。
何でもいいから、祓ってくれればそれで良いんだ。
「とにかく、その霊を呼んでみましょう。大場さん、そこに立って、動かないでください」
「ええと。こうかな?」
「はい。では、呼び出しますよ。迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ――現!」
俺に向けて何か印のようなものを結んだ瞬間、室内の温度が下がった気がした。
今は11月。もともと寒くなっては来ていたけど、まるで真冬のような寒気が、全身を襲う。
「み、水原さん。今のは?」
「霊を呼び出すため、術を使いました。……アナタが、大場さんに取り憑いている方ですね」
水原さんはそう言って俺……いや、俺の後ろの、誰もいない空間をじっと見つめている。
ひょっとしてそこに、アイツがいるのか? 怖くなった俺は水原さんを盾にするように、彼女の後ろに回り込んだ。
「私から離れないでくださいね。そこのアナタ、何故大場さんに取り憑いて……きゃっ!?」
そこにいるであろう幽霊に向かって手をさしのべた水原さんだったけど。まるで静電気を食らったみたいにバチッと手を弾かれ、同時にパンパンと言うラップ音が、部屋の中に響く。
この現象は俺でも知っている。ポルターガイストだ。
「ど、どうなったんだ?」
「霊を呼び出すことには成功しました。髪の長い、ベージュのジャケットを着た女の人の霊、間違いはないでしょう。けど彼女、冷静さを失って暴れているのです」
「だったら早く、地獄にでも送ってくれ!」
「地獄って、彼女はまだ……。とにかく、まずは大人しくしてもらわないといけませんね。迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ――滅!」
水原さんが手をかざした瞬間、一際大きなパンと言う音がして、今まで聞こえていたラップ音が、ピタリと止まる。
俺には何も見えなかったけど、水原さんがそこにいた霊を攻撃したのは、何となくわかった。
「やったのか? もう祓えたのか?」
「いいえ、弱らせただけです。けどこれで、暴れることはできません。これでようやく、話をすることができますよ」
「話って、そんなことしてる場合か! まだそこにいるのなら、とっとと祓ってくれ!」
「ですがどうしてこんなことをしたのか聞かないと、本当の意味での解決にはなりません。アナタ、名前を聞かせてもらえませんか?」
身を屈めて、そこにいるであろう霊に話しかける水原さん。
けど待て! 余計なことを聞くんじゃない!
彼女を見ながら、俺は焦りを募らせる。
このままじゃ知られたくない秘密を、暴かれると思ったから。
そうならないために、先生とやらも来ないよう画策したというのに!
だけどそんな思いも空しく、水原さんは聞いてはいけないことを口にした。
「寺田良美、それがアナタの名前ですね。では寺田さん、アナタはどうして大場さんに取り憑いたりしたんですか……えっ?」
ゆっくりとこちらを振り返る水原さん。
ポルターガイストが起きた時も冷静だった彼女の目は大きく見開かれていて、信じられないといった様子で俺に目を向ける。
そして……。
「寺田さんは、階段から突き落とされたと言っています。……大場さん、アナタから」