ハライヤ!
「遠慮はいらないぜ。トモは才能あるけど、今は俺の方が断然強いんだから」

最後の一言で、やっぱりわたしはまだ弱いんだって思ったけど、風音君の言うことも分かる気がする。
強くなるためには、頼り方も覚えた方がいいのかなあ。

「……わかった。ちゃんと頼るようにするね」
「本当⁉」
「今は、だからね。いつか絶対風音君よりも強くなって、わたしが守ってあげるんだから!」

ビシッと指差して宣言する。たしかに今のわたしは弱いよ。
けど、それじゃあやっぱり悔しいんだもの。
いつか絶対に、追い抜いてやるんだから。

風音君はしばらくキョトンとしていたけど、すぐにおかしそうにぷっと吹き出した。

「は、はははっ。はははははははっ!」
「な、何がおかしいの? わたしじゃ無理だって言いたいの?」
「違う違う。強くなりたいとか俺を追い越すとか。なんかトモって、少年漫画の主人公みたいだなって思って。けど、最高! 強くなるの、楽しみにしてるよ」

本気にしてるのかいないのか、今一つ分からない。
けどこの時、打倒風音くんという目標が、わたしの中にできた。

絶対にいつか、越えてみせるんだから。

「そうだ、それと思ったんだけど、その髪どうにかした方がいいんじゃない? 昨日ぬいぐるみと戦ってる途中、木に引っ掛かってたでしょ」

そういえばぬいぐるみから逃げてる最中に引っ掛かって、身動きが取れなくなったっけ。あれはひどい失敗だった。

「それじゃ、切った方がいいのかな?」
「そこまでしなくても、結べば邪魔にならないんじゃないの。ほら、こんな風に」

下ろしていた髪を、後ろにまとめるようにして掴む風音くん。
これは、ポニーテール?

「きれいな髪なんだから、切るのはもったいないって。トモのポニテ、絶対可愛いよ」

風音くんはのんきに笑っているけど、わたしは全身がカッと熱くなって、思わず顔を反らした。
だって今まで、男子に可愛いなんて言われたことなんてなかったんだもの。

恥ずかしいようなくすぐったいような、変な気分。

「……それじゃあ、明日は髪、結んでくる」
「うん、楽しみにしてるよ」

何が楽しいのかわからないけどニコニコ笑っちゃって。
そんな彼を見て、わたしはますます熱くなるのだった。

そして、一夜開けた次の日。
わたしは宣言通り、髪を結んで登校したのだけど。

「え、なんでツイン? ポニテじゃないの?」

わたしを見るなり、風音くんは目を丸くする。
わたしは昨日進められたポニーテールじゃなくて、左右二ヶ所でまとめたツインテールにしていたのだ。

「べ、別にいいじゃないい。邪魔にならないよう結ぶとは言ったけど、ポニーテールにするとは言ってないもん」

本当言うと、ポニーテールもいいかなっては思ったよ。
けどここで言われた通りにしたら、まるで可愛いって言われたからポニーテールにしたみたいじゃない。

わ、わたしは修行の邪魔にならないよう結ぶだけ。風音くんに可愛いって言われたいから結ぶんじゃないんだからね!

風音くんは残念そうに肩を落としたけど、すぐに気を取り直したように顔を上げる。

「まあいいか。ツインでも可愛いし」
「可愛くないって! もう、からかうなんてひどいよ!」
「えー、本当に可愛いのにー」

可愛い可愛い言われながら、頭を撫でられる。
こういう距離が近い所は苦手で、一緒にいると実力の差を見せつけられる、憎たらしい相手。

だけどいつか必ず、そんな風音君を越えてみせるんだから!
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