ハライヤ!
サトルくんじゃなくて、真由子ちゃん?
すると渇を入れるように葉月君の声が飛びます。

「みんな落ち着いて。絶対に振り返ったらダメだからね! サトルくん、真由子ちゃんって女の子が行方不明になってるんだけど、何か知らない?」

予定していた質問をする葉月君。すると。

「真由子ちゃん? ははっ、なんだ。この体の持ち主のことか」

おかしそうに、だけど冷たい声でクスクスと笑いながら。返ってきたのはゾッとする答え。

体の持ち主って、まさか……。

「待ってください。サトルくん、まさかあなた、その子の体を乗っ取ったんですか⁉」
「ふふふ、そうだよー。真由子ちゃんはね、ぼくを呼び出したはいいけど、途中でうっかり振り返っちゃったんだ。だから罰として、体を頂いたんだよ。おかげでぼく、すっごく強くなったんだ。ふふふ、ふははははははっ」

まるで自慢しているみたいに、楽しげに笑うサトルくん。
そしてその話を聞いて、私と葉月君は状況を察しました。

「どうやらサトルくん、振り返ってしまった人に取りついて、体を乗っ取ることができるみたいですね」
「それにさっきの口ぶり。もしかしたらコイツは誰かに憑依することで、力を増す妖なのかも? だったらこの霊力にも納得だ。真由子ちゃんに取りついた事で、強くなってるんだ」
「せいかーい。お兄ちゃんたち、頭いいね」

あっさりと認めるサトルくん。
これで事件は彼の仕業だということがハッキリしました。
真由子ちゃんはやはり、サトルくんに拐われていたのです。
けど真相がわかっただけでは助けられません。

「ねえ、振り向いちゃったことはあたしからも謝るから、真由子ちゃんを返してよ」
「僕達のクラスメイトなんだ。だからお願い」

振り返らないよう気を付けながら、お願いする明美ちゃんと宗太くん。
すると。

「うーん。それじゃあ一つ、ゲームをしようか。真由子ちゃんを見つけることができたら、君たちに返してあげる」
「見つける? 見つけるもなにも、後ろにいるじゃん」

椎名さんが不思議そうに聞きます。
けど、サトルくんはすぐさまこれに答えます。

「ダメダメ。ちゃんと真由子ちゃんの姿を見ないと、見つけたとは認めないよ。どうする? 今後ろを向けば、すぐに見つけられるよ」

誘うように言ってきますけど、ダメです。
もし後ろを向いたら。

「椎名さん、これは罠です! 振り返ったら真由子ちゃんを返す前に、椎名さんまで取りつかれてしまいます!」
「振り返っちゃいけないのが、サトルくんのルール。きっとコイツは意図的に、後ろを振り返りたくなる状況を作ってるんだ。振り返った人に取りついて、力を得るために」
「げ、何よそれ!」

おそらくですけど、真由子ちゃんも振り返りたくなるよう、言葉巧みに誘導されたのだと思います。

けど振り返りさえしなければ襲われることはないはず。
妖の中には、ルールの上でしか動けないものもいるのです。

しかしどうします。
このままじゃ真由子ちゃんは返してもらえない。けど振り返ったら、サトルくんに体を奪われる。

こんなの、八方塞がりじゃないですか!
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