ハライヤ！

「仕方がない、俺が振り返ってみるよ。俺ならやられる前に、サトルくんをやっつけられるかもしれない」
「無茶です！　簡単にどうにかできる相手じゃないって、わかっていますよね」

葉月君の言う通り、修行をつんでいる私達なら、戦うこともできるかもしれません。

ただしそれは、敵が手に負える相手だった場合に限ります。
この異常な寒気と圧力、そう簡単にいくとは思えません。
けど。

「それじゃあ、真由子ちゃんはどうするの？　早く助けてあげないと、取り返しのつかない事になるかもしれない」
「だったら、私も一緒に戦います」
「ダメだ。もし二人ともやられちゃったら、誰が悟里さんに報告事だってできなくなるだろ」

確かに。でも二人でも勝てないかもしれない相手と一人で戦わせるなんて。そんな無茶をさせるわけにはいきませんよ。
なのにこの頑固者ときたら。

「とにかく、ここは俺に任せて。トモが加わったって、勝てるとは限らないんだから」
「私を役立たず扱いする気ですか⁉」
「そうは言ってないよ。ただ、もしもの事は考えておくだけ」　
「だったら戦うのは、私でも良いじゃないですか。なのに相談もなしに一人で勝手に決めて。だいたい葉月君はいつもいつも……」
「二人とも止めーい！　ケンカしてる場合じゃないでしょーが！」

サトルくんそっちのけで言い争う私達を、椎名さんが止めに入ります。
す、すみません。ちょっと熱くなりすぎました。

「知世も葉月君も、少し落ち着いて。さっきから聞いてたら、サトルくんが相当強くて、勝てるか分からないのが問題なんだよね。だったら、あたしに良い考えがあるんだけど」

良い考え？　それっていったい？

「ねえサトルくん、この二人は祓い屋なんだけどさ、あんたをぶっとばせる方法を教えてくれない？」
「「えっ⁉」」
「「ええっ!?」」

私と葉月君の声、更には明美ちゃんと宗太君の声もが重なります。
まさか戦う相手に倒し方を聞くなんて。掟破りと言うか、何と言うか。

「ぼくをやっつける？　ははは、それは無理だよ。だってぼくはお兄ちゃんやお姉ちゃんよりも、ずっと強いんだもの」

うっ、ダメですか。
不可能と言わんばかりに一笑するサトルくん。でも悔しいけど、本当にそれくらい、実力差はありそうです。

「ああ、でも真由子ちゃんを助けた後なら、勝てるんかもね。ぼくは体を失ったら、弱くなっちゃうから」

ああ、そうです！
真由子ちゃんに取りついたことで強くなったのなら、体から追い出すことができれば弱くなるってことですものね。
けど。

「どうする、お兄ちゃん達、振り返ってみる？」
「絶対振り返りません！」

これは勝機があるように見えて、私達を振り返らせようという罠。
私達が先にルールを破ったら、真由子ちゃんを返す必要も無いですからね。

「やっぱり俺が振り返ってみるよ。一か八かだけど、このままじゃ助けられないからね」
「そんな。さっきサトルくんも、勝てないって言ってたのに」
「だからって、このままってわけにはいかないでしょ。それにもしもの時のことを考えると、トモを残しておいた方がいい。トモは俺より頭良いから、何かあった時は頼りになるもの」

これから勝ち目の無い戦いを挑もうというのに、穏やかな口調で言い聞かせてくる葉月君。

けど、頭なんて良くないですよ。
本当にそうなら、この状況を覆せる策の一つでも浮かんでいますから。