ハライヤ!

椎名美樹side 学校

◇◆◇◆

今日は中学に入学してから、初めてのマラソン大会。
グラウンドには既に体操着に着替えた生徒の姿があり、あたし、椎名美樹もやる気満々で準備運動をしていた。

小学生の頃から始めた陸上。
部活ではたくさんの大会に出て、優勝したことだってある。
あたしにとって、走るのはいつだって真剣勝負なの。
だから校内のマラソン大会だからって、決して手を抜いたりはしないのだ。

だけど準備運動をしていたら、不意に誰かが肩を叩いてきた。

「……ねえ」

振り返ると、そこにいたのはセミロングの髪の、初めて見る女子だった。

「ねえ、今日のマラソン、私と一緒に走らない?」
「へ?」

いきなりの提案にキョトンとする。
まず、アンタいったい誰よ? 

クラスの女子じゃないし、陸上部の子でもない。
初対面なのに、いきなり一緒に走ろうってどういうこと?

だいたいあたしはこの、『一緒に走ろう』が好きじゃないの。
マラソンって、自分の力を全部出しきって、高みを目指すものじゃない。なのに他人にペースを合わせてたら、それができないじゃん。

「あのさあ、悪いけどあたしは、自分のペースで走りたいの」
「一緒に走って。お願いだから」
「いや、だからね」
「走って」

何なのこの子。一人で走るのが寂しいなら、あたしじゃなくて友達を誘えばいいのに。
よーし、こうなったら。

「分かったわ、一緒に走ろ」
「本当?」
「うん、ただしあたしは本気で走るから、そっちがついて来てね」

我ながら意地悪なこと言ってるとは思う。自慢したいわけじゃないけど、あたしは陸上部の上級生と比べてもかなり速い方。たぶん、彼女じゃついてはこれないだろう。
これで諦めてくれたらいいんだけど。
「うん、約束だよ。最後まで一緒に走ってね」

え、いいの? ていうかあんた、ついてこれるの? 

だけど聞き返す間も無く、彼女は去って行ってしまった。いったい何だったの?
不思議に思いながら、首をかしげていると。

「すみません、少しお尋ねします」
「ひゃあ⁉」

再び声をかけられて、思わず変な声が出る。
一瞬、さっきの子が戻ってきたのかと思ったけど、今度は小柄なツインテールの女の子で、彼女はじっとあたしを見ながら言葉を続ける。

「さっき誰かから、一緒に走ろうって言われませんでしたか?」
「い、言われたけど」
「そうですか……。あの、それなら私とも一緒に、走ってくれませんか?」
「はあっ?」

またか! 
さっきの子と一緒で、この子とも初対面のはずなのに。
話した事の無い人と一緒に走るのが流行ってるの? 

「あーもう、わかったから。ただし、そっちがあたしのペースに合わせてよね」
「はい、できるよう頑張ってみます。あの、それともう一つ」
「今度は何?」
「お名前を教えていただけないでしょうか?」

名前も知らないのに誘ったんかい!

「椎名美樹よ。準備運動しなくちゃいけないから、もう行くね」

つっけんどんな態度を取りながら、返事も聞かずにその場を去る。

なんか、走る前から疲れた。
まさかとは思うけど、もう一緒に走ろうなんて言ってくる子はいないでしょうね?

きょろきょろと辺りを見回したけど、幸い声をかけてくる子はいない。

ふう、よかった。
これ以上変なことに時間をとられたら、たまらないもんね。
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