甘いものが嫌いな後輩くん
新しい環境になかなか馴染めないストレスと、バイト三昧の毎日に疲ればかりが溜まっていく。
好きだった自炊も今では適当にスーパーの値引きシールが貼られたお弁当を買って帰る毎日に変わってしまった。
華やかなキャンパスライフはまるで幻想だ。そんな私の唯一の楽しみはコンビニスイーツ。甘いものは疲れを忘れさせてくれる。それなのに。
「あーもう最悪」
今から代わりのプリンを買いに行く元気もなく、仕方なくケトルで沸かしたお湯をカップ麺に注いでいると弟くんがやってきた。
「先輩」
「なにー?」
「先輩は怒らないんですか?」
「怒ってるわよ」
「……」
「先輩はお人好しですね」
弟くんはキッチンの引き出しから箸を取り出しあろうことか私の目の前にあるカップ麺を食べ始める。
「え、ちょっと」
「ほへはぼっしゅうひまふ」
熱々のカップ麺を頬張る弟くんに怒りを通り越して呆れてしまう。
「まだお湯入れたばっかりなんだけど」
「バリカタですね」
「ばりかた?」
「はい。バリカタです」
「消化に悪いわよ」
「好みの問題です」
本人を目の前にはぁ。と深いため息をつけば弟くんはあっという間に食べ終えて、ぐいっとスープも飲み干し空になったカップをシンクに置いた。
「では僕がプリンとカップ麺のお礼に夜ご飯を振る舞いたいと思います」
「え、あ、ありがとう……」
秒で空になったカップ麺に泣きたくなる衝動を堪え買い置きしておいたお菓子の袋を開ける。
「ちょっとスーパーに行ってきます。お菓子、食べ過ぎないでくださいよ?」
「はーい。いってらっしゃーい」
高校生は元気でいいな。ほんの少しその元気を分けてほしい。つい先日まで自分も制服を着て高校生をやっていたなんて考えられない老けっぷりだ。特に考えが老けている。
ソファにもたれれば手元には弟くんのゲーム雑誌。退屈しのぎにはなるだろう、1ページ、また1ページと読み進めていく。新作MMORPGやバトルロワイヤル。ゲームはしたことがなかった。興味がなかったわけではないが今更感があってなかなか始められなかった。家庭用ゲーム機のゲームはどれも続編ばかりでどこから始めれば良いのかもわからず、オンラインゲームに関してはほんの少し怖いとさえ思えた。楽しいのかな。
初めて読むゲーム雑誌はとても新鮮だった。