甘いものが嫌いな後輩くん
「あ、そうだ。先輩、今度のゴールデンウィーク出かけませんか?」
「え、あ……。え?」
「あ、もしかして寝てました?」
「ご、ごめん。もっかい言って」
いつの間にかうとうとしてしまっていたらしい。
「ゴールデンウィーク出かけませんか?」
「うーん」
誘いは嬉しいがバイトのシフトの都合もある。それに勉強もしておきたい。
「あ、あとこれ。毎月の家賃と生活費の分です。遅くなってすみません」
そう渡された封筒の中には以前夏希と住んでいた頃より少し多い金額が入っていた。
「あ、大丈夫だよ。ありがとう」
正直助かる。仕送りはもちろんあるがそれでも家賃を一人で払うには限界があった。
「バイト、あまり無理し過ぎないで下さいね。先輩」
「ありがとう」
呼ばれ慣れないでいた先輩という言葉がスッと馴染んできた。いい後輩くんだ。
「そうだね。ゴールデンウィークに出かけようか。いつがいいかな」
「土曜日は部活なんで日曜はどうですか?」
「いいね」
部活か。確かに家ではゲームばかりしている割に筋肉質な体。欲いう爽やか系男子、というものだろうか。きっと学校でもモテているに違いない。
「先輩?」
「あ、いや。何部なのかなってちょっと気になって」
「陸上部です」
「凄い! 足速いんだ!」
「まぁまぁです」
「足が速いのは羨ましいな。私は50メートルも10秒が限界」
「先輩らしいです」
くすくすと笑う後輩くんにつられて笑いが溢れた。
「どうせ鈍臭そう、とか思ってるんでしょ!」
「そんなこと思ってないですよ」
あははっと声を上げて笑う後輩くん。
「別に鈍臭いからいいよぅ」
「先輩はかわいいですよ」
「何よ。お世辞なんか言ったってんっ」
突然甘いもので塞がれた口。ふんわりと柔らかくて、そして鼻腔をくすぐるバニラビーンズの香り。シュークリームだ。
「お世辞じゃないですよ。僕はずっと見てましたよ。先輩は僕なんか見てなかったかもしれませんが」
「え、それって」
ぽかん、としてしまった私の手から落ちかけたシュークリームを後輩くんが受け止め頬張り、器用に指先についたクリーム舐め取っていく。
「ん。甘い甘い」
「さ、佐藤くん」
「先輩?」
顔が近い。ほんのりとシャンプーの香りに混じって汗の匂い。ドキドキと音を立てる心臓にほんの少し眩暈がした。
「やっと僕を呼んでくれて嬉しいです」
にっこりと笑う後輩くん。
「え、あ、うん」
「先輩?」
「佐藤くん、わ、私今日は先に休むね」
「おやすみなさい、先輩。また明日」
「うん。おやすみ」
ただの友だちの弟くんだと思っていたのに、同じ高校で後輩だと意識して、ほんの少し近寄れば異性だと意識してしまう。
そんなドキドキを悟られないように、これ以上異性だと意識しないように布団の中に潜り込んだ。