エデンの彼方でいつかまた

春友敬信

「……!! そのブレスレット……!」

殴りかかられても顔色ひとつ変えない男の瞳と表情が、初めて動いた。

「……?」

瑞希はギュッとそれを握りしめたまま、不安とな瞳で見返している。
じっと見つめていた男の口が、動いた。

「il a chié et maché」

その言葉にハッとした。
途端に鋭角的な顔だちと瞳が十一年前の、あの時の瞳と重なる。

「うんこのお兄さん……?」

瑞希が呟くと、男は笑みを浮かべた。

「驚いたな……あのときのガキか」

男は放り投げるように学武を解放し、瑞希に近寄る。

「やっぱりおまえに渡して正解だった。大きくなったな」

にこやかに嬉しそうである。
先ほどまで、男を掴みあげていた人物とは思えない。

一方、解放された学武は喉元を抑えて息を荒くし、男をにらむ。

「なんだおまえ……訴えてやるからな!」
「へえ。 どちらへ?」

男は意地悪く、せせら笑った。

「勘違いしているようだが、ここはおまえの云う警察の手も届かない。完全な治外封建な場所だ。おれが消えろといえば、おまえは消える。試してみるか?」

男の瞳が鋭い剣となって学武を見据えている。

黒を白だという、ごり押しが通じない相手。

学武はこの時になって初めて、立ち向かってはいけない相手だったのだと、気づいたかもしれない。

険悪な空気を切るように高いヒール音が割って入る。

「もうやめなさい。見苦しいわよ」

男と同年代だろうか。
スーツ姿がとても美しい女性が腕組をして立っていた。

留乃と学武、そして二人の父親の会社社長、山吹 銀珠(やまぶき うんじゅ)である。


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