エデンの彼方でいつかまた
その後、駆けつけた警備員が留乃と学武、その親を追い出したあとである。

銀珠が瑞希に改めて頭を下げた。

「ごめんなさい。社員が大変な失礼とご迷惑をおかけしました。社長としてお詫び申し上げます」
「い、いいえ! わたしも紛らわしい動きをしていましたし……誤解が解けてよかったです。こちらこそ、ありがとうございました」

顔をあげた銀珠は、瑞希を凝視する。

「……白羽瑞希さんよね? 三ヶ月前に退職した」
「はい、そうです」

銀珠の表情が曇る。
今までのやり取りで、何かを察したのだろう。

「言い訳にしかならないけれど、私のところまで報告書があがってこないの。新しく社内を洗うわ」
「そうだな、銀珠。おれだっていきなり殴られそうになったんだからな、落とし前はつけろよ」

皮肉気に敬信は笑い、瑞希の肩を抱いたまま去ろうとする。

「まって、その子をどうするつもり?」
「家に連れて帰る」
「あなたの家に?」

敬信は不思議そうな顔をし、瑞希は顔を真っ赤にさせた。

(い、いきなり家に!?)

「悪いか? この子はおれが作ったブレスレットを持ってるんだよ。留め金が壊れかけてるんだが、パーツが家にあるからな」

銀珠の瞳が呆れている。

「あなたと出会って二十年。私は家に入ったことがないわよ」
「そうだったか? それはそうと、おれには恩人がいるって云っただろう? この子なのさ」
「フランスへ経つ前に会ったっていう?」
「そうだ」

銀珠が瑞希を見つめ、驚いた顔をみせた。

「不思議なこともあるものね」

美しい銀珠の笑顔に瑞希は顔を赤らめた。
同性からみても、とても美しい女性である。
会社ではもちろん、こんな風に会話をしたこともなかった。

「それじゃ、行こうか」
「あ、あの……」
「ああ、そういえばちゃんとした自己紹介もしていなかったな。春友 敬信(はるとも けいしん)だ」
「え、ええと、わたしは白羽です。白羽 瑞希です」
「瑞希。いい名前だな」

敬信が柔らかい瞳で瑞希を見つめ、一方でそんな言葉を訊いたことが瑞希は、どぎまぎとしてしまう。

「瑞希の干支は?」
「丑です」
「そうか、おれと一緒だな。一回り違ったんだな」

楽しそうに敬信は笑う。

そんな二人を銀珠は眺めていたのだが、嬉しそうな、しかし悲しそうな。
そんな表情が一瞬、見えた。

「あの……」
「今日の仕事か? 心配するな、おれが話しをつけておく」
「そうなんですけれど、そうじゃなくて」

振り返ろうとしたが、敬信の長身に隠れて見ることはできなかった。



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