エデンの彼方でいつかまた
「わあ……!」」

敬信によって修復されたブレスレットは付け心地がよく、留め金に負担をかけない微調整がしてある。

「そういう付け方に慣れてしまうと、無意識にやっちまうからな。今度はよほどじゃない限り壊れない」

「嬉しい……、本当に本当に、ありがとうございます!」

感激と安堵、そして嬉しそうに瑞希は笑顔を見せ、ブレスレットを大事そうに慈しんでいる。

「……」

らしくもなく自分の顔が自然に綻んでいることに敬信は気づき、口元に拳を当て咳払いをした。
瑞希は気づかない。
二十一年前の、あの時と同じだった。

「あ、あの……お代はどのくらいですか?」

瑞希が恐る恐る口にした。
世界的デザイナーが直々に修理したとあっては、それなりの代金は覚悟している。

「保証期間内サービスで済ませてやるさ。……それにしてもよく今まで持ってたな、そのブレスレット。おれが初めて作ったアクセサリーでね。デザイナーになってやるって決めた物なんだ」

裸一貫デザイナーになると決め、初心を忘れないために常に身につけていた品物だそうだ。

「だからあのとき、大切な物っておっしゃったんですね」

敬信は懐かしそうに頷く。

「あの時の売り上げは、滞納していた家賃になって。そのあとフランスに行った」

「だから会わなかったんですね」

「探してたのか、おれを」

瑞希は顔を赤くさせ、頷く。

「おれも会いたかった。……あの時は男だと思っていたが、瑞希は女性だったんだな」

敬信の瞳が優しく笑っている。
口と態度は悪いが、根はイコールではな
い。

「ふふ、わたしのことを男だと思っていたんですか。あの頃のわたし、髪もショートでしたし、服装も男の子っぽかったかもですね」

二十一年目にして判明した誤解と真実。
優しい言葉、そして再会に嬉しく思いつつ、瑞希は背を正すと頭を下げた。

「お兄さん……いえ春友さん。助けてくれてありがとうございました。先ほども、あの時も」

「昔、助けられたからな。借りを返せてよかった」

その言葉にズキリと胸が痛んだ。
再開できてブレスレットも直り、もうこの男とは会えなくなってしまう。

実際に、もう会う機会はないだろう。






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