エデンの彼方でいつかまた
敬信の声と表情にどこか諦めの影がかかっている。
瑞希は膝の上で拳を作り、うつむいた。

「……お兄さんは、わたしの初恋でした。ずっとお兄さんに会いたくて……。わたしも三十才になりました。逆に、わたしでいいのか申し訳なくて」

気持ちを素直に伝え、瑞希は深呼吸をする。

「本当は、理由があるんじゃないんですか?」

このまま浮かれて敬信の気持ちに添っても良かった。
しかし後に傷つくのは自分だ。

敬信のような男が思い出の女に熱をあげるとは、到底思えない。
自分を探していたと云っていたが敬信ならば、すぐにそれはできたはずだ。
それをしていなかったということは……。

しばらく瑞希の顔を見つめていた敬信が、口を開いた。

「……このまま、夫婦になってくれないか」

瑞希は敬信の顔をみた。

「実は親族から縁談をすすめられて困っている。一定の期間だけの、フリでいい」

偶然の再開から結婚に発展し、その後、離婚しても不審に思う人間はいないだろうと敬信は云う。

「……」

憧れの男から偽りとはいえ求婚されている。
複雑な気持ちもあるが、瑞希は首を縦に振った。

「わかりました。お受けします」

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